ご縁があって友人の紹介で猫シッターをしたお家の家主さんは私がワーホリで来た94年から名前を知っていたガラスアーティストの竹ノ内直子さん。
展覧会のオープニングなどで言葉は交わしたことはあるもののアーティストとして大先輩の方に根掘り葉掘り聞くのを躊躇していたのですが、『猫好き』というご縁でお話を聞く機会を得ました。
ーバンクーバーに来たきっかけはなんだったのでしょうか?
89年の終わりにワーホリで来たんです。
ー89年にワーホリで来るって珍しいですよね?
そうかもしれないですね。今でこそワーホリは聞き馴染みがあるけれど。
小さい頃はお絵かきが好きでしたね。
「絵描きさんになってパリに行くんだ」って幼稚園の時に言ってた(笑)
図工と体育も5点満点の5で得意でした。
大学を決める時に絵画は1浪、2浪はあたりまえ、なのでもう少し実用的なデザイン関係でも勉強しようかなと考えてガラスを専攻。
多摩美でガラスを専攻して、卒業して北海道のガラス工房で働いたんです。
ーなぜまた北海道へ?
北海道は「浮き玉」で有名でガラス工房が割とあるんですよ。
札幌にスウェーデンセンターというところがあって、スウェーデン人のアーティストをよんで日本人のアーティストとハンドクラフト技術の交流を図ったのね。
そこでスウェーデン人のアーティストからグランビルアイランドでガラス工房をやっている友人がいると聞いて訊ねて行ったのだけど、紹介された人はそこにはいなくて、違う人がオーナーだったの。雇ってくれって頼んだけどダメだって言われた。それはそうよね、何処の馬の骨ともわからぬ、英語も話せない日本人が来ても「誰だ、お前」って感じよね。
ボランティアでいいからと無給でグランビルアイランドのガラス工房『New-Small & Sterling Glass Studio』で働いたの。
ー収入はどうしたんですか?
ジャパレスでウエイトレスをやったんだけど、これがほんとに向いてなかった。最悪だった。私一つのことしかできないのね、オーダーとったり物を運んだりマルチタスクになんでもこなせずに何をやってもダメダメだった。
3ヶ月たったらガラス工房の親方が吹きガラスができるじゃないかって認めてくれて雇ってくれることになったの。速攻ジャパレスはやめた(笑)
ーそこでどのぐらい働いたんですか?
7、8年はやっていたと思う、そのあと独立してスタジオを借りて自身の創作活動を始めた。
ー独立して苦労したことはありますか?
私の作品は具象だから売れやすいと思う。当時から売ることには苦労しなかった。それよりも英語がちゃんと喋れない、若く見えるというので苦労した(笑)
いちばん嫌だったのは仕事の金銭面でちょろまかされたりすること。
ーえ〜そんなことあるんですか?
ありました。確認しようとして電話してみても正直に返事してもらえなかったり、英語がちゃんと喋れなくて本当に苦労した。
ーいつも思っていたのですが、アーティストの中でもガラスをやってる人たちはみんな結束が固くて仲がいいですよね。
ガラスっていう素材が頼り合わないとやっていけない。常に工房をシェアしたり、アシスタントが必要。一人ではやっていけないという特質があります。
バーナーで作るとんぼ玉のようなランプワークの人は一人でもやっていけるかな、でも相応にしてガラスをやってる人口が少ないので仲良くなりやすいのだと思う。
ーガラスを吹くのはどこで?
「Terminal city Glass co-op」という共同工房で吹いています。
ー家の裏庭に工房がありますよね、そこではやらないのですか?
コールドワークという吹き終わった作品の最終的な仕上げを裏の工房ではしているのだけど、ガラスは1000度以上の熱で溶かしてるから「吹く」仕事はインダストリアルエリアでないとできないの。
本当にガラスって体力が必要で運動神経が必要なアート。子供の時に体育が5だったのがここで生かされてる(笑)
大学時代にはひと夏に15キロ痩せていた。気温が40度の真夏日には釜の前は50度になるので卒倒する人もいる。
溶解炉は1000度以上。グローリーホールはもっと熱い。2つの釜がある小さな部屋はサウナなんてもんじゃない。痩せたかったら是非どうぞ(笑)
ー(笑)最後にこれからの目標などお聞かせください。
バンクーバーに来てガラスに絵を描くというスタイルを確立して表現することに成功してやってきましたが、別の方向を探し始めてます。10年くらい前からガラスを使ってもっと彫刻的なことを始めてるんですがライフワークでガラスはやっていきたいですね〜。
これからも引き続き、人生で起こったことや日常の体験をガラスを通して表現していけたらいいなーって思ってます。
直子さんの家はバンクーバー市内とは思えないほど自然に囲まれていて、それらがモチーフとなって作品に映し出されています。
ガラスなのに暖かい、自然のエネルギーがふんだんに織り込まれた作品です。展覧会などがある時は『The Bulletin』でお知らせしていきたいと思います。
[文と写真:Sleepless Kao]