
写真:sleepless kao
日々演じていた、というよりは生きていた
戦前に活躍したバンクーバー朝日軍を題材とした映画『バンクーバーの朝日』のワールドプレミアが9月29日にバンクーバー国際映画祭で行われ、主演の妻夫木聡さん、亀梨和也さん、石井裕也監督、稲葉直人プロデューサーが来加した。
上映前に開催されたプレスコンフェレンスで主人公・レジー笠原役を演じた妻夫木さんは「僕らが生まれた時代は、日本は平和で何をするにも多くの選択肢があり、選ぶことの出来る立場にある。 (朝日軍の存在した)当時は、仕事を選ぶ事は出来ず、その中で野球を行っていたと思う。そうした状況で希望だったのは朝日という存在であって、そういったことを心に留めて日々演じていた、というよりは生きていた」と役への思い入れを語った。
朝日軍のエース・ロイ永西役を演じた亀梨和也さんは「日系の方達の感覚・文化について触れさせて頂く機会は今回が初めてで、違った文化の中で同じ日本人が生きていたということを撮影を通じて僕自身が学んだと思う。日本人の根本にある強さを意識しながら演じていた」とコメントした。
今回バンクーバー国際映画祭5回目の参加となる石井裕也監督は「日系人の強制収容や、朝日軍についてはここにいる全員が(この映画に携わるまで) 知らなかったし、日本人のほとんどは知らないと思う。被害者面をした作品は作りたくなかった。その逆と言うか、どれだけ強い思いを持っていたかと言う事を表現したかった」と作品に対するアプローチを振り返った。
また、稲葉プロデューサーは「一番はじめに朝日の事を知った時、すごく大変な時代で、非常に 閉塞感がある世界だったのではないかと思った。それは、時代が変われどあることで、 今と通じている物がある 。その中でどうやって生きて行くのかと言う根源的な物に共通点を感じた。話が来た時には、民族間の架け橋となったのが政治家や権力家ではなく、アマチュア野球チームということだったが、 リサーチを進めるにつれて民族間の問題は、当時から今に至るまで全く変わる事なくあり続けていると思った」と熱く語った。
撮影を通じて日本人のアイデンティティーについて考えさせられたか と言う質問に対し、亀梨さんは「寒い時期の撮影だったので、おにぎりや味噌汁を皆で食べたりした。その時に日本人だな〜、と感じた」と心温まる裏話を披露し、緊張感が漂っていた会場の雰囲気を和らげた 。

写真:sleepless kao

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熱烈な歓迎
ワールドプレミアは発売開始後2日で完売し、当日券を求める人々が長蛇の列を作った。レッドカーペットを歩く3人には大歓声が響き、亀梨さんのうちわや、「ようこそ」と書かれたポスターを持っているファンから熱烈な歓迎を受けていた。
上映には朝日軍OBのケイ上西功一(92歳)さんも出席し、上映後に「この映画は野球だけではなく、戦前に実際あったことを見せていただいて、そのうえ朝日のプレーを見せていただいて、とても嬉しかったです。(妻夫木さん、亀梨さんに対し)お二人とも上手にバントもできていましたね」*と語った。
それぞれの「朝日」
1999年にカナダに移民したアーティストの安藤真理子さんは「移民としてバンクーバーに住んでいる者としていろいろと切ない思いがこみ上げて来た。とても素晴らしい映画でした」と感想を述べた。
現在かつてパウエル・グラウンドがあったオッペンハイマー公園でプログラマーを務め、毎年朝日軍トリビュート試合もコーディネートしているサンディー・マッキーガンさんは映画について「オッペンハイマー公園での仕事を通じて、朝日軍の歴史については色々と聞いていた。今回映画を見て、今まで聞いていた事と、ビジュアル的な要素が一緒になり、朝日軍の歴史についてより理解が深まった」とコメントした。
日系カナダ人2世のニナ・稲岡・リーさんは「一番印象に残ったのはレジーが、父親にカナダに移民してくれたことを感謝するシーン。自分の両親がカナダに移民した経験と重なる部分があった。この映画を見た後、自分の両親にも改めてカナダに移民してくれてありがとうと伝えた 」と話した。
また、映画の歴史背景コンサルタントを務めたグレース・エイコ・トムソンさんは「1914年から1941年まで存在していた朝日軍の歴史がとても素晴らしく凝縮されていたと思う。セットと撮影は日本で行われたので、街の雰囲気が少しだけれど、ごちゃごちゃしている感じがした。本当の1938年頃のパウエル街はもう少しきれいだったから。でも、総合的には素晴らしい作品だったと思う」と作品の製作プロセスに関わった感想を述べた。
ワールドプレミアの様子は日本のメディアでも大々的に取り上げられている。
余談になるが、今回のプレミアは妻夫木さんの熱愛騒動後初の公の場 ということもあり、日本のメディアからはカナダに来てまでそういった質問がされていたようだった。ただし、妻夫木さんは「なんすか?」とその質問も交わしたようで、日本メディア軍の攻撃はアウトに終わったようだ。
上映スケジュールとチケット購入情報
『バンクーバーの朝日』はバンクーバー国際映画祭であと3回上映が決まっている。10月1日現在、10月4日(土)と10月10日(金)のチケットはすでにラッシュチケットのみ。追加で上映が決まった10月9日(木)のチケットは現在でも購入可能なので、詳細、チケットの購入方法はバンクーバー国際映画祭のウェブサイトにてご確認下さい。
日本では12月20日に公開される。
*Cinema Topics Onlineより抜粋
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