
証言者、ウォルター・松田氏(右)に担当の編集委員、鹿毛達雄から本を贈呈。 写真提供: ジョン・遠藤・グリーナウェイ
去る6月4日、「日系人を称える—沈黙を破って」(Honouring Our People−Breaking the Silence*)のグレーター・バンクーバーJCCAによる刊行を記念する催しが日系センターの会議室で行われた。参加者は60名で会場は満員の盛況だった。
本来、この本は2009年に当地で行われた同名の会議の記録として計画されたものである。すなわち、大戦中の収容体験者の証言集として出発したが、その時代の日系人のの体験の様々な側面を明らかにするために、補足する証言の寄稿やインタビューなどを含めることにした。そして、証言を収容所などの地域的な広がりを主な基準にして編成した260ページの本となった。この本のレイアウトの担当者、ジョン・グリンアウェイ氏の配慮で多数の写真や地図などが加えられていて、読みやすくなっているのもこの本の特徴である。
出版記念会はJCCAのロレーン・及川会長の司会のもとに、この本の編集者ランディ・榎本氏や会議や出版のためのニュー・ホライゾン助成金取得などに尽力したトシ・北川氏が挨拶した。そして、10数名の出席した証言者あるいはその家族へのこの本の贈呈がおこなわれて、当日のハイライトとなった。すなわち、ジュデイ・花沢氏、メアリー・北川氏、そして私など編集委員として関係した担当者から各証言者への贈呈が行われた。そこには証言者と編集担当者とのつながりが示されて、日系人コミュニティの活気とエネルギーを感じさせられた。この集まりには多数の年長の日系人が参加していたが、加えて、若い日系人や戦後移住者、日本からの研究者の姿も見受けられた。
今後の活動に繋げていくための提案
この本の編集・作成に関係した一人として、個人的な感想を記したい。まず第一に、大戦中の体験の証言を収集できるのはこれが最後ではないか、という感慨を禁じえなかった。今や大戦から70年、証言者の多くは当時10歳前後だった二世で、現在80歳以上の高齢である。したがって、今後とも個別的に話を聞くことは可能であるが、本書のように証言をまとめることは、これが最後のチャンスとなったと言えよう。その意味で、この本「日系人を称える」は日系人コミュニテイを理解するための貴重な資料となっている。
若い世代や移住者の証言も
この本の出版に関連して提案したいことがある。すなわち、三世、四世などの証言を集めるというプロジェクトの可能性である。次の世代(三世や四世)の日系人としての成長期に、あるいは大人として体験している偏見、差別を含めた生活体験の証言をお願いする機会が設けられないかということである。
それによって、本書から知られるような前の世代(二世)の体験との比較が可能になるとだけではなく、三世や四世の人々は同世代の人々がどのような体験をしているかについてお互いに知ることができ、
ひいては自分自身の置かれている立場を意識化し て理解できるようになるだろう。加えて、混血の若い世代の人々が増えていることを考えて、異なった文化伝統が自分の中でどのように併存・混在し、あるいは統合されているかについての経験を分かち合うこともできるであろう。
さらに、すでに40年以上の当地在住の経験がある人々もいる戦後移住者も証言聞き取りの対象に加えるべきであろう。このような証言者の範囲の拡大によって日系コミュニティの現況や将来への展望を考える有力な手がかりが得られると思われるのである。

[ 文・鹿毛達雄]