大駱駝艦バンクーバー入り!特別インタビュー

第15回バンクーバー国際ダンスフェスティバルが3月8日から始まった。今回のフェスティバルの目玉は何と言っても日本から28年ぶりにカナダで公演を行う舞踏集団・大駱駝艦(だいらくだかん)。

 第15回バンクーバー国際ダンスフェスティバルが3月8日から始まった。今回のフェスティバルの目玉は何と言っても日本から28年ぶりにカナダで公演を行う舞踏集団・大駱駝艦(だいらくだかん)。3月16日に舞踏ワークショップのため他のメンバーよりも一足早く来加した村松卓矢さんと現在フェスティバル事務局でも研修中のカンパニーマネージャー山本良さんにお話を伺った。

(左から)山本良さん、村松卓矢さん、湯山大一郎さん
(左から)山本良さん、村松卓矢さん、湯山大一郎さん

—舞踏、大駱駝艦との出会いは?

大駱駝艦の「海印の馬」という作品を見たのが初めての出会い。その後伊豆下田の合宿の案内が来て、それに参加して体を動かして表現することを体験してね。もともと美大で絵を描いていたんだけど、舞踏を知って体でやったほうが早いなと思ったんだよね。

3月16日にHarbour Dance Studioで行われたワークショップの様子
3月16日にHarbour Dance Studioで行われたワークショップの様子

—本日のワークショップの中で舞踏はいろいろな解釈ができるというお話がありましたが、村松さんにとって舞踏とは?

舞踏はこのようなものだと固定してはいけないと思っている。麿さんが練習中に言った言葉で「舞踏の中に舞踏はない」というのがあってね。これが僕にはとても心に残っていて、常に疑う姿勢を持って既成の枠にとらわれないように気をつけているね。

—舞踏に見られる白塗りや特徴的な動きはどのような意味があるのですか?

塗るとやっぱり魅力的に見えるよね。だから、塗って魅力的でなかったら塗らないほうがいい。いつも作品を作るときには塗るか塗らないか考えるね。全く違う色に塗って失敗したときもありますよ。

動きについては頭で理解したいという気持ちが働くと思うけれど、踊りで言葉を超えた表現を目指しているのでこれは感覚的なものですね。かっこよかった、魅力的だったと感じたということはその人はわかったということなんだよ。

—熱が出てだるい時の動きだとか、眠っている時の動きといった例えがワークショップの中で出ました。我々が日常意識しない動きに注目するということはとても新鮮な視点ですね。

こういった動きって、意識していないから覚えていないだけで。だからいざやるとなると記憶からは持ってこられないのでぎこちなくなるんです。でも人間の動きっていうのはこういった覚えていない部分のほうが圧倒的に多いと思う。

笑ってと言っても笑えない。でも何か面白いことを言うと笑ってくれる。じゃあそれをどうやって自然に実現させるかと考えた時にどうするか。例えば「奥歯がかゆい」って感じでやってと説明する。別に例えは違ってもいいんです。それによって表現が実現すれば。

—今週末上演の「ムシノホシ」では松尾芭蕉を演じるとのことですが。

作品を観てもらえばわかるのですが、僕は松尾芭蕉の「役」ではない。人間の側面としての芭蕉、観念、そして史実などの記号的な側面の全てを織り交ぜて、複合物としてやっているのが今回の作品に出てくる芭蕉かな。

—「ムシノホシ」の見どころは?

麿さんの作品はいろいろな視点から楽しむことができるようになっているので全部が見どころだね。

麿さんがよく使う例でこんなのがあるんだよ。りんごが木から落ちるという現象があるけれど、これをただ単に落っこったと捉える人もいれば、農家の人だったら落ちちゃって残念だなと思うだろうし、サルからしたらそれはごはん。ニュートンはここから万有引力を発見しているし、この現象を官能的に捉える人だっているかもしれない。だから今回の作品も人によって惹かれる部分は様々なんだよね。それが麿さんの作品のいいところだとも思う。

—好きなムシはタイコウチとのことですが。

小学生の時にタイコウチを飼っていたんだよ。握ったり、ひっくり返したりした時の感触を今でも覚えてる。

—そして、好きなホシは地球と。

それ以外に知らないからね(笑)

3月16日にHarbour Dance Studioで行われたワークショップの様子
3月16日にHarbour Dance Studioで行われたワークショップで指導をする村松卓矢さん

村松卓矢プロフィール
静岡県藤枝市出身/11月9日生まれ。1994年大駱駝艦入艦以降全作品に出演。2001年、壺中天公演「うしろのしょうめん」を発表、2002年New York ジャパン・ソサエティにて上演。2003年「宝島」をアメリカン・ダンス・フェスティバルにて発表。2006年、文化庁新進芸術家海外留学制度の研修員としてアメリカに滞在、アメリカン・ダンス・フェスティバルの国際振付家委託事業(ICCP)に参加。2009年5月吉祥寺シアターにて「ソンナ時コソ笑ッテロ」を上演。2009年5月壺中天に於いて「穴」を発表。2011年、アメリカ・ピロボラス振付、オーストラリア・ZENZENZO振付。2013年「忘れろ、思い出せ」発表、パリで上演。

人と人の繋がりによって実現したカナダ公演

 今回このように28年ぶりにカナダで公演することになったのは、バンクーバーの舞踏グループ、ココロ・ダンスの主宰でもあり、ダンスフェスティバルプロデューサーのジェイ・平林とバーバラ・ブジェットが2013年に大駱駝艦が毎年主催している夏合宿に出席したのがきっかけとなった。「申し込みの際に平林という名前だったので、日系の人だとは思いましたが、それまでココロ・ダンスというカナダの舞踏グループのことは全く知りませんでした。合宿後にオフィスに来たいという申し出があり、拠点の見学という目的かと思ったのですが、バンクーバー国際ダンスフェスティバルの名刺が出てきてびっくりしました。思わず『Are you the executive director?』と聞いてしまいました。今まで他のダンスグループの作品の振り付けを行ったりするコミッションの依頼はありましたが、今回のようなアプローチをされたのは初めてでした」とカンパニーマネージャーの山本良さんは当時の様子を語った。当初は2014年のフェスティバル参加を打診されたが、その年は他の公演がすでに決まっていたため、2015年参加に向けて準備を進めていった。「ジェイとバーバラはフランスのモンペリエで行われる私たちの公演を見に行って交渉ということも考えたようなのですが、それだと挨拶だけでしっかりとした交流ができないと思い、合宿に来たようです。私たちも彼らのそういった人と人の繋がりを大切にする姿勢に心を打たれました」

 作品には100本以上のパイプが使われたセットが使われるが、その運搬も西海岸港湾ストライキの影響で急きょ船便から航空便に変更するという予想外の事態に見舞われたがそれ以外の準備はスムーズに進んだとのこと。

 今回、カナダでの公演は1987年以来28年ぶりとなる。メンバーのほとんどは今回カナダで初めての公演であり、作品「ムシノホシ」は海外初のプレミア上演である。「今いるメンバーとしてカナダで公演するのはほぼ初めてなので、観客の方々の反応がとても楽しみです。これまでバンクーバーでソロや4~5人の舞踏パフォーマンスは見たことがある方がいるかもしれませんが、今回はダンサー22人の大舞台です。作品を通じて一石を投じることができたらと思っています。また、この公演が今後の大駱駝艦のカナダでの活動につながっていけばと」

 山本さんは、メンバーよりも一足早くカナダ入りし、日本の文化庁の海外研修制度によりダンスフェスティバル事務局でアート・マネジメントについても研修を行っている。研修3週間目を迎えた山本さんは「VIDFのプロデューサーのジェイとバーバラは多文化の共存する環境で育っているので、そこが日本とは違うところだと感じました。そういった文化がある街でどのようにダンスを通じて情報発信をしていくかということを研修を通じて見せて頂いています。彼らはダンスを通じて観客をより混沌とした世界に導くことを楽しんでいるように感じています。分からないけど何か面白くて惹かれるものを発信し、それを受信し、共有することの楽しさを伝えたいのかな」と語った。

山本良プロフィール
1996年大駱駝艦入艦。2002年より専属制作として活躍。

[文・山本一穂]

第15回バンクーバー国際ダンスフェスティバル
ムシノホシ
大駱駝艦(日本)

3月20日(金)21日(土)
バンクーバープレイハウス(600 Hamilton Street)
$40 – $50 (10枚以上の購入の場合一枚$35)
詳細・チケット:vidf.ca または604.662.4966

当日販売される大駱駝艦グッズ(現金のみ・数量限定)

  • ポスター:$10
  • ポストカード(8枚セット)$10
  • 手ぬぐい(赤&黒):$10(一枚)
  • DVD「裸の夏」:$40
    大駱駝艦の夏合宿を追ったドキュメンタリー映画。2008年公開。
  • 『ガドィンの河を渡るとき』:$40
    5冊限定!麿赤兒のサイン入りです。

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