何でも好奇心「詠進の御歌」

♪ねんねの ねむの木 ねむりの木 そおっと ゆすった その枝に 遠い昔の 夜の調べ ねんねの ねむの木 子守唄

By 天野美恵子

♪ねんねの ねむの木 ねむりの木 そおっと ゆすった その枝に
遠い昔の 夜の調べ ねんねの ねむの木 子守唄
 B市の歴史保存建築物の中での英詩朗読会で日本語を話し言葉では話さない方が私の耳元で歌って下さった。
♪うすくいの 花の咲く ねむの木陰で ふと 聞いた 小さな ささやき
ねむの声 ねんね ねんねと 歌っていた
♪ふるさとの夜の ねむの木 今日も 歌っているでしょうか  あの日の夜のささやきを ねむの木 ねんねの木 子守歌
Lyric by Empress

「詩集・墓碑銘」
 新美南吉の詩集は1962年(昭和37年)に出版された。皇后妃殿下が最初に『東京英詩朗読会』に招かれて1975年(昭和50年)にこの詩の英語詩と日本語詩、そして『和歌英訳』を朗読された。朗読は日本語の原文を朗読され、その後、英訳詩を朗読されている。

「英詩朗読会」
 東京英詩朗読会は1974年(昭和49年)白百合女子大学英文学部のマリー・フォロメーヌ教授によって始められた。大学教授と学生の同教の集いで大学内で開かれている。この大学で皇后妃殿下はハリール・シブランの『子供について』On children/k.Gibran子供と母親に関わる詩とコヴェントリー・パトモアの『玩具』 The Toys /C.Patmore母親を亡くした男の子と父親の愛情詩、新川和江『歌』、竹内てるよ『頬』、皇后詩『蛍』、御歌『手紙』を朗読された。

「2回目の朗読会」
 米国バーモント州の詩人ロバート・フロストRobert Frost『花のひとむれ』The tuft of flowersは皇后様が2回目の朗読会で取り上げられた詩であった。その中の『世界名作選』に『牧場』が載っている。
Ⅳ 牧場の泉を掃除しに行ってくるよ。 ちょっと落ち葉をかきのけるだけだ。
  すぐ帰って来るんだから 君もきたまへ

「日本の詩人」
 童話作家・詩人の新美南吉の詩を皇后様はお好きで詩9編と『道の垢』『牝牛』『春風』を朗読されている。和歌の英訳は『月次(つきなみ)の詠進』という年中行事で取り上げられた。1月から12月の各月について天皇陛下がお題をだされ、皇族方と招かれて許された人々が、毎月そのお題を詠み込んだ和歌を作り、陛下に献上するものである。

「秋の英詩朗読会」
 1977年(昭和52年)秋の英詩朗読会で皇后様は、それまでの『月次の詠進』で昭和天皇に詠進された御歌の中から『冬銀河』を選ばれて英訳し、朗読された。
  冬空を 銀河は乳と 流れゐて みどりご君は 眠りいましけむ

「国際児童図書評議会」
 2002年(平成14年)に皇后様はスイスのバゼル開催された50周年記念、国際児童図書評議会大会に招かれてお祝いのご挨拶をなさった。
『生まれて 何も知らぬ 吾が子の頬に 母よ 絶望の涙を落とすな
 その頬は赤く小さく 今はただ一つのハタンキョウ(巴旦杏)にすぎなくとも いつ 人類のための』『子供を育てていた頃に読んだ忘れられない詩があり、未来に羽ばたこうとしている子供の上に、ただ不安で心弱い母の影を落としてはいけない。その子供の未来は、あらゆる可能性を含んでいるのだから。』と遠くから語りかけてくれたのは詩人の言葉だった。

「泉・A Spring」
ある日、ふと 泉が沸いた。One day A Spring welled up
私の心の 落ち葉の下に。From under a fallen leaf In my heart
蜂が来て、針とくほどの A small spring Just enough for a bee to come
小さな泉。To sharpen its sting.
しょうもなくて、花をうかべて Not knowing what else to do I et a flower petal float on it,
ながめていた。And there kept my gaze All day.

「女性の詩人」
 皇后様が取り上げられた女性の詩人は新川和江さんの『歌』と『私を束ねないで』の2編を朗読された。『はじめての子を持ったとき 女の唇から ひとりでに洩れだす歌は この世で いちばん優しい歌だおお そうでなくて なんで子供が育つのだろう このいたいけな 無防備なものが』母と子の詩である。竹内てるよさんの詩からは『頬』を選ばれた。3人目は岡山で農業を従事しながら詩を書き続けた永瀬清子さんの『夜に燈ともし』『あけがたにくる人よ』『美しい国』『降りつむ』の4編だった。若い日に心を通わせることの出来なかった片思いの恋を老齢になって『あけがたにくる人よ ててっぽっぽうの声のする方から 私のほうへ しずかにくる人よ もう 過ぎてしまった いま来てもつぐなえぬ 一生はすぎてしまったのに』と語りかける悲哀の詩である。この詩は日本ペンクラブが現代日本文学を海外に紹介するために発行している機関紙に皇后様の英訳によって収録されている。

「詩人まど・みちお(1909-2014)」
 『ぞうさん』『やぎさん ゆうびん』などで知られる詩人のまど・みちお氏の詩を皇后様は20篇の詩を2冊の手作りの小冊子に纏められた。1992年(平成4年)に『どうぶつたち・The Animals』、『ふしぎなポケット・The Magic pocket』という2冊の詩集として日本と米国で同時に出版された。そして、この詩集は国際アンデルセン賞の作家賞を受賞した。

「蚕の詠御歌」
 戦時中、疎開先の群馬県で飼われていた『蚕』について詠まれた御歌は『真夜こめて 秋蚕は繭を つくるらし かそかそとのみ 音はきこゆる』『かって夏の日 音たてて桑を 食みゐし蚕ら 繭ごもり季節 静かに移る』蚕が夜通し繭を造る音が聞こえ始めてから、繭が出来上がって静かになるまでの過程が書かれている。

「蛍の詩」
 初夏の夕暮れに、15歳の少年が幼い妹の手にする小枝から蛍を逃がしてやっているのを母親が見ている。兄妹を見守る優しい母親の愛情の詩である。『手許の光が消え 2人の子の中に ほの光るものが さしはじめる』

「東日本大震災の御歌」
 2011年(平成23年)に起こった、戦後最大の自然災害については深い悲しみの御歌がある。『<生きていると いいねママ お元気ですか>文に項傾し 幼な児ねむる』津波に浚われて行方不明になってしまった、母親に手紙を書きながら、書きかけの手紙の上で疲れて眠ってしまった4歳の女の子を詠んだ御歌である。『何事も あらざりしごと 海のあり かの大波は 何にてありし』『草むらに 白き十字の 花咲きて 罪なく人の 死にし春逝く』

「朝はIn The Morning」
朝は影が長いので、少女の頭がThe morning shadow is long, The shadow of a girl’s head
私の足元へ届く。Reaches my toes.
朝風はやさしいので The morning wind is gentle
髪の一房が A lock of her hair
私の足元でうごく。Moves at my feet.
―――― 好きな少女の朝の影。Oh, this morning shadow of a girl I love ――――
私はその影を踏まないで I’ll not step on it
朝露の真珠にふちどらせ、 I’ll be watching it still, asking the morning dews
じっと見てる。To frame the shadow with their pearls.