VIFF映画祭 2018レビュー

­Bathtubs Over Broadway (2018年)

 米国の国内産業に活気があった1950年代から1980年代、各企業の製品をテーマにしたミュージカル(産業ミュージカル)が大量に制作され、自社の社員の娯楽や慰安のために盛大なショーが行われました。景気が良かったので給与もよく、ブロードウェイで活躍した歌手、俳優の中にもそこを修行の場にした人もいたそうです。しかし、産業衰退とともに産業ミュージカルも衰退。

 一方で、その内容の面白さ、風変わりさから産業ミュージカルのレコードに一部マニアが注目。産業ミュージカルの魅力に取り憑かれ長年レコードを蒐集してきた男性に密着したのがこの作品。映画後半では、当時の作曲者や出演者を探して各地を巡り、産業ミュージカルを生きたそれぞれの人生が紹介され、ホロリとする場面もあります。米国産業の知られざる側面に焦点をあてたとても良いドキュメンタリー映画。2018年トライベッカ映画祭でBest New Documentary Directorを受賞。

VIFF Site: Bathtubs Over Broadway

Central Airport THF (2017年)

 1923年に開設され、1948年の「ベルリン大空輸」の舞台にもなったベルリン・テンペルホーフ空港は2008年の閉鎖以降、広大な公園として市民に広く利用されてきました。一方、建物施設は、2015年以降の難民危機でドイツに来た難民の避難所として使用されました。その1年を追ったドキュメンタリーです。

 避難所の施設とそこで暮らす人々が時間の経過ともに疲弊し荒んでいく様子はあまり登場せず、その意味では、対象とやや距離感のあるドキュメンタリーです。この映像だけ見ると、限られた時間や資源の中でドイツ政府や現場のスタッフは難民支援のためにかなりの努力をしたのだろうと思えます。

 一方で、難民たちが来てもベルリン市民の憩いの場としての元空港の役割は変わらず、菜園や養蜂など市民の穏やかな日常も画面に登場します。そうした日常の描写は、一次的な滞在者である難民たちの不安定さや不安との静かな、しかしはっきりとした対比として見ることができます。

VIFF Site: Central Airport THF

Eldorado (2018年)

 イタリアでの移民危機を扱ったドキュメンタリー。近年は難民、移民に焦点を当てた映画が増えているが、その中でもていねいに取材して制作された佳作。

 海を渡ってイタリアに到着する大勢の移民たちに対し、イタリア政府の当局者たちは決められた手順にしたがって個人登録をし、健康診断をし、上陸させるための手続きを行う。職員たちは使命感から懸命に支援活動を行うが、あまりに難民の人数が多いため、一連の行動はともすれば機械作業のようにも映る。一方で、上陸後の移民たちが過酷な労働、劣悪な生活環境で暮らす現状も隠しカメラを用いた撮影で明らかにされる。

 監督はベルリン国際映画祭銀熊賞の受賞歴もあるMarkus Imhoof(スイス出身)。第二次大戦後、監督の両親はイタリア難民の少女を家族として受け入れるが彼女はその後当局によってイタリアに戻され、病死してしまう。その個人的な経験を時折挟み込みながら、現在のヨーロッパが難民にどう向き合っているのかを問うドキュメンタリー。

VIFF Site: Eldorado

Ash Is Purest White (2018)

 「三峡好人(Still Life)」、「天注定(A TOUCH OF SIN)」などで知られる賈樟柯(Jia Zhangke)の最新作。原題は「江湖儿女」。

 多くの賈樟柯作品と同様、炭鉱などの主要産業が衰退し、地域が活気を失いつつある中国の地方小都市が舞台。地元ヤクザを恋人に持つ女性は、その恋人を救うために咄嗟に行った行動で刑務所に服役することになるが、出所したときには二人の関係も、社会の状況も変わっていた。作品では、彼女の半生を通して、現代の中国社会での経済と価値観の変化、貧富の格差の拡大の状況が描き出される。同時に、人情や義理、忠誠心など、現代社会で軽んじられがちな価値観が人と人とを結びつける役割を果たし、人が生きる拠り所の一つであったこともメッセージとして伝わってくる。

VIFF Site: Ash Is Purest White

United Skates (2018)

 米国で黒人の余暇文化として長く人気があるローラースケート。低価格で楽しめるローラースケート場は黒人たちの交流の場でもあったが、近年は都市部の地価高騰、再開発でローラースケート閉鎖が相次いでいる。そうした困難な状況を背景に、黒人文化としてのローラースケートの普及とそれを通した人間模様を描いたドキュメンタリー。ローラースケート場で繰り広げられる「技」の数々も見もの。

 監督は長年取材を続け、ハッピーエンディングにできるまで制作を続けたという。見終わって気持ちが元気になる映画。

VIFF Site: United Skates 

 

Microhabitat (2017)

 韓国で制作されたドラマ作品。有能な家政婦として働く単身女性ミソは家賃高騰、物価上昇に直面したことから住んでいたアパートを引き払い、学生時代の友人宅を渡り歩く生活を始める。ソウルで暮らす30歳前後の男女の経済的な生きづらさ、社会格差を時にユーモアも交えて描き出す。怒りや暴力など強い感情表現が特徴的な多くの韓国映画とは一線を画し、主人公は経済的な苦境に対しても半ば諦めを持って向き合う。一見受け身のように見えて、淡々と自分の生きる道を進もうとするミソの姿は韓国映画としては新鮮で、なおかつ清々しい。2017年ニューヨークアジア映画祭でBest Film受賞。

VIFF Site: Microhabitat

 

[文:Kahoruko Yamamoto