JCCA 人権委員会の対外的活動から

私たち、JCCA の人権委員会のメンバーは折に触れて当地の少数民族グループや外国、とくに日本の人権擁護を促進する団体と連絡があり協力している。1937年の南京事件、あるいは従軍慰安婦に対する陳謝や補償問題ついて私たちの立場や意見を求められることもある。その一例として、南京事件がある。

南京事件とは
 1937年、日本軍が当時の中国の首都であった南京を攻撃、占領した事件であり、そこで行われた「現地の徴発によって給養すべし」という命令に基づいて徴発を行い、徴発行動にともなう殺害、放火、強姦、略奪などの行為を各地で繰り広げられた。しかしこの事件は日本国内ではほとんどニュースとして報道されなかったが、現地の外国人レポーターによって諸外国のメディアを通じて報道されている。(日本・中国・韓国=共同編集。『未来をひらく歴史―東アジア3国の近現代史』。2005年、高文研、東京、126-127.)この事件に関して東京裁判の被告、石井石根(陸軍大将、中支那方面軍司令官)は死刑になった。

  この問題に関するもうひとつの資料を引用したい。日本で多くの中学生、高校生が参照している「世界史小辞典」(2004年、山川出版社)である。「南京事件」の項目が次のように説明されている。

南京大虐殺ともいう。日中戦争初期に、中国国民政府の首都南京を攻略した日本軍が、中国軍民に対して大規模な残虐行為を行った事件。1937年12月13日に南京を占領した日本軍は、住民を巻き込んだ包囲殲滅戦、残敵掃討戦を展開しした。このとき、すでに戦闘部隊の体をなさず、戦意を喪失した膨大な数の投降兵、敗残兵、捕虜、負傷兵を、戦時国際法に違反して処刑、殺害した。日本軍の軍事占領は翌年3月まで続き、この間敗残兵狩りを行い、兵士の嫌疑をかけた成年男子市民も殺害した。

中国女性の強姦、食物や物資の略奪、人家の放火、破壊など軍機の乱れによる不法行為も多発した。南京城内その周辺さらに付近の農村をふくめて十数万の中国軍民が犠牲になったと推測される。

日本人の国民性とは?
 ここで私の個人的体験に触れたい。十数年前の昔のことになるが、1997年、南京事件60周年に因んで、中国系カナダ人による展示や集会が行われた。招かれてランディー・榎本(当時、NAJC 会長)とともに出席したことがある。そこでパネル討論が行われた際に、中国系の参加者から「残虐は日本人の国民性か?」という厳しい質問が発せられた。
 私はかねてから「国民性」という概念、考え方に疑問を抱いていたので、1937年の年末に起こったこの大量虐殺事件を「日本人の国民性」表れと見ることは単純化だと考え、その時の事情、国際社会のルールや常識を無視した軍や政治の指導者の方針、兵士や一般国民を極端なナショナリズムの思想で教化、教育した結果であると考えていた。そのような趣旨で「残虐は日本人の国民性か?」という質問に不十分ながら回答した。このとき以来、中国系カナダ人の団体 , ブリティッシュ・コロンビア州抗日戦争史実維護会(BC Alpha)と協力するようになった。その年の秋には、家永歴史教科書裁判の最高裁判所に当地で集めた大量の署名を送り届けた。私はこの裁判の判決傍聴のために、招かれて訪日、傍聴だけけではなく、主任弁護士の尾山宏氏など多くの支援団体の関係者と出会うことができたのは幸いであった。

細菌戦裁判の宣伝 
 その後、翌1998年7月には日本における731部隊細菌戦裁判の広報、宣伝のために、弁護士など代表団が当地を訪れ、証言集会が催された。この集会のエピソードとして、日本で証言活動を続けていた篠塚良雄氏(74歳)が戦犯と見なされて入国を認められなかったことである。同氏は少年兵として731部隊の隊員であったことが理由。カナダ政府の再考を求めたが認められなかった。同氏は大戦後、4年間、撫順の戦犯管理所に収容され、取調べを受けた後に起訴免除となって帰国を許された。従って、戦犯とみなす必要はないものと思われた。移民法専門の弁護士などの援助で入国を許可するようカナダ政府に働きかけたが、私自身も帰国していた同氏と再度、渡航が可能かどうか話し合ったが、時間切れになった。(拙稿:「開かれつつある和解への展望:カナダ・バンクーバーで開催された日中戦争に関する証言シンポジウム」。『中帰連』、第7号、1998年12月。) その後、人権委員会のメンバー、ジュデイ・ハナザワ、デビッド・マッキントッシュが、裁判傍聴のために訪日している。

高校用教材の作成
 私はJCCA 人権委員会の委員としてBC Alpha のテクラ・リット氏やビクトリア大学のジョーン・プライス教授と協力しながら、BC 州文部省の協力を得て、高校の教材の作成に取り組んだ。2001 年に発行されたこの教材はBC 州のハイスクールに配布されている。(Human Rights in the Asia Pacific 1931-1945: Social Responsibility and Global Citizenship: A Resource Guide for Teachers to Support Aspects of Senior Social Studies Curriculum. 2001. Ministry of Education, Curriculum Branch, Province of British Columbia. )

[文・鹿毛達雄]