働きing:山本薫子

今回はちょっと異色の職業に就く山本薫子さんをインタビューしてみました。
山本薫子さん
山本薫子さん

 今回はちょっと異色の職業に就く山本薫子さんをインタビューしてみました。

—こんにちは、早速ですが社会学者ってどんな仕事をしているのでしょうか?

 バンクーバーではDTES(Downtown Eastside)地区の地域住民やホームレスに対する支援活動やハウジングの問題、ジェントリフィケーション(貧困地域に比較的豊かな人々が流入する人口移動現象)をめぐる問題についてリサーチしています。

 2007年に社会学の学会のためにUBCに来ました。そのときに学会がツアーバスを出してくれてDowntownを見て廻りました。2012年からDTESをリサーチし始めて、今年で5年目になります。

 日本の文部科学省のグラント(補助金)をいただいて活動しています。基本的には支援団体や社会企業、地域活動の現場に行って活動内容を聞いたりしています。

—なぜバンクーバーなんでしょうか?

 もともと横浜の寿町という日雇い労働者の街(「寄せ場」)で10年以上リサーチをしてきました。寿町と比較できる場所をずっと探していたのですが、2010年にアーティストの友人がDTESを案内してくれて、そのときにホームレス・低所得層に対する支援活動、日本町の歴史、日本語学校の取り組みを知り、とても関心を持ちました。

 DTESにはホームレスの人たちが利用できるシェルターや施設がたくさんあるのですが、集える場所の選択肢があるというのは日本の状況と比べた時にすごいなと思ったんです。また、日本ではジェントリフィケーション問題はあまり一般に知られていないので、DTESでのジェントリフィケーションに対する取り組みはとても興味深いです。

 MainとHastings ストリートにあるCarnegie Community Centre では様々なイベント(ハイキングや観劇など)が催されています。この地区に住むアーティストにグラントを出してアートショーを行ったり文化的な活動も盛んです。

 基本的には低所得者のための施設なので一般の人が使用するのは遠慮した方が良いようですが、リサーチの一環としてカフェテリアを一度体験したことがあります。

—気になるのは、決して綺麗とは言えないDTESになぜあえて足を踏み入れるのか、です。日本から来た日本人でEast sideのHastings St.を歩いている人は珍しいなと思うのですが薫子さんはどういう経緯でこの分野に踏み入ったのですか?

 そうですね…中学生のときに1年間、ロサンゼルスで生活した時に移民や亡命をしてきた同級生も多い学校にいて人種差別やソーシャルジャスティスの問題に関心を持ったのが最初のきっかけだと思います。

 日本に帰国した1980年代終わりはバブル期でした。1990年代に入ると、ニュースでは外国人労働者の問題がしきりに流れていました。アメリカで移民が多い環境で暮らしたこと、なにより自分自身がはじめて「外国人」となる経験をしたことで、日本に帰国してから外国人や移民の問題に自然と関心を持つようになりました。

 神奈川県内の大学に進学したのですが、大学周辺にはISUZUの工場があって日系ペルー人や日系ブラジル人等たくさんの外国人労働者が働いていました。

 ベルリンの壁崩壊などの時代背景もあり、大学では総合政策学部というところで国際関係、国際政治、外国語などを学んでいたのですが、もっと外国人労働者に関わることを勉強したいと思うようになり大学院に進みました。

—社会学を学ぶとはどういうことでしょうか?

 簡単に言うと人、とりわけ人と人の間の関係、人の集団によって成り立つ社会に注目するということでしょうか。心理学は人の内面を学びますが、社会学は人々の行動や意識の背景を考えます。

 大学院進学後、リサーチのために外国人労働者の支援団体を探し、横浜にあった支援団体のボランティア説明会に参加したところ、その場所が寿町でした。日雇い労働者が集まり、「ドヤ」という簡易宿泊所が100軒以上立ち並ぶ寄せ場(ドヤ街)については話を聞いたことがあっても実際には行ったことはありませんでした。最初はその場所にある支援団体にやってくる外国人労働者についてリサーチしていましたが、徐々に寿町自体にも関心を持ち、リサーチを始めました。

—薫子さんの中で、そういう場でボランティアをする事とはどう違うんですか?

 ボランティアとリサーチャーは目線が違うんだと思います。私は、わからないことを知りたいという思いで活動しています。

—「寿町」については私も素通りしたぐらいであまり知られていませんよね。

 今の寿町では、DTESのCarnegie Community Centreにあたる建物の建て替え問題が大きな課題です。街の外から「この街をよくしたい」「改善したい」と考えて寿町にやってくる人たちは多いのですが、私は変わらなくても良い部分もあるんじゃないかと思うのです。これはDTESにもつながりますが、地域の人たちにとっては当たり前に思えることのなかにその街の良さや価値が含まれていることがよくあります。

—これらのリサーチはどこにつながるんでしょうか?

 良い質問ですね…まず、リサーチの結果は論文や書籍などになりますね。学界という狭い範囲での研究業績になります。

 はっきり言えば、私のリサーチによって制度や法律を変えるとかビルが建つということには直接はつながらないと思っています。研究というのは大きく分けて基礎と応用がありますが、社会学は基礎にあたるので、まずは「なにが起きているのか」「なぜそれが起きているのか」を明らかにすることが目的です。そうした成果が結果的に地域の人たちに役立つものになればいいと思っています。

 自分の住んでいる地域(バンクーバーDTES)をまた違う視点からお話を聞けておもしろかったです。

ありがとうございました。

Contact
首都大学東京 都市環境科学研究科 准教授 山本薫子
www.tmu.ac.jp

[文・写真 Sleepless Kao]