Vancouver International Film Festival 2014: Part 3

VIFF 2014 Award Winners

VIFF 2014 Reviews

The Vancouver Asahi 「バンクーバーの朝日」 (Japan)
1914年Vancouverで日系2世達によって結成されたベースボールチーム朝日。小柄で弱小チームだった朝日だが、バントや盗塁等頭脳プレイを駆使し、1930年代には白人からも応援される人気チームとなった。移民者達が差別や迫害を受けていた時代、朝日の活躍は日系社会に将来への望みを与えていた。しかし、1941年日本の真珠湾攻撃によって敵性外国人と見なされた日系人達は収容所等への移住を強いられ、戦後も朝日が再結成される事はなかった。後、朝日の貢献が認められ、2003年にCanadian Baseball Hall of Fame、2005年にはBC Sports Hall of Fame入りとなる。昨年VIFFで「舟を編む」が好評、Vancouveritesにも人気が高い石井裕也が監督。VIFF Rogers People’s Choice Award を受賞。12月19日より期間限定でVancity Theatreにて上映予定。上映時間等詳細はwww.viff.orgにて確認してくだい。ちなみに、National Film Board of Canadaによって作成されたドキュメンタリー“Sleeping Tigers: The Asahi Baseball Story”は、NFBウェブサイトwww.nfb.ca/film/sleeping_tigers_the_asahi_baseball_storyにてご覧頂けます。

Mommy (Canada: Quebec)
情緒不安定で時に暴力的になる息子Steveを女手一つで育ててきたDiane。母子の愛情は深いものの、憤慨し暴れるSteveには手を焼いていた。ある日、近所に住むKylaから救済を受ける。Kylaは休職中の教師でどもり症に悩んでいた。KylaがSteveの家庭教師になり、以来3人で過ごす事が多くなる。Kylaの存在は母子間に好影響を与え平穏が訪れるが、ボーディングスクールでSteveが負傷させた子供の親から訴訟を起こされ・・・。Xavier Dolan監督は、母子間の深い愛情と感情のニュアンスに焦点を当て、それを丁寧に且つ繊細に描いている。各シーンのフレーミングにもこだわり、特にオープニングシーンとラストシーンは芸術的で美しい。Mommyは、来年度アカデミー賞外国語部門のカナダからの出品作に選ばれた。Cineplex Odeon International Villageにて上映中。

Whiplash (USA)
ジャズドラマーとしての成功を夢見て著名な音楽学校に入学する主人公Andrew。名指揮者Terence Fletcherのコンクール養成クラスの一員に抜擢されるが、それを喜んだのも束の間、初日からFletcherの容赦ないスパルタ教育を受ける事になる。恥や敗北感が偉大なミュージシャンを生み出してきたとAndrewに教えるFletcher。大切なコンクール当日、失敗を犯したAndrewはメインドラマーの位置を失い、一度はその夢を諦める事になる。また、元生徒がFletcherの厳しい指導に耐えられず自殺し、Fletcherの指導方法が行き過ぎていると感じる教育機関は、Andrewの協力を基にFletcherを解雇する。数年後、再会したAndrewとFletcher。2人の対立が調和へと変わるクライマックスは、緊迫感が途切れず素晴らしい。脚本も担当したDamien Chazelle監督は、作品の資金繰りに難航した為、脚本の一部をショートフィルムとして製作し、2013年サンダンス映画祭に出品。それが好評を受けスポンサーがつき今作の完成へとつながった。Andrew役Miles TellerとFletcher役J.K. Simmonsが好演。両者共に音楽のバックグランドを持っている。Fifth Avenue Cinemasにて上映中。

Wild Tales (Argentina / Spain)
6つのショートストーリーから構成されるこの作品は、タイトルの如く突飛な話ばかりで究極の復讐と正義を語る。どれもダークなストーリーなのだが、脚本はセンスの良いユーモアたっぷりでスマートに書かれている。上映の始めから終わりまで笑いと喝采が止まらず、VIFFで最も話題になった作品。San Sebastian映画祭でAudience Awardを受賞。来年度アカデミー賞外国語部門のArgentinaからの出品作に選ばれた。

Behavior (Cuba)
11歳のChalaは父親を知らず母親はアルコール中毒。生計を助ける為、ドッグファイトの犬の世話をしていた。母親思いで優しいChalaだが、学校では問題児扱いされリフォームスクールへの転校を言い渡される。教育委員会の建前を重視する委員長Raquelに反し、長年教職を務めコミュニティーから多大な信頼と尊敬を受けている教師Carmelaは、Chalaの良き理解者。子供の将来を考慮する事が重要だとRaquelを批判し、Chalaをリフォームスクールへおくる事に断固として反対する。作品は、社会の犠牲になっている子供達の辛い実態を伝えると共に、Carmelaと生徒達の交流を心温かく描いている。Malaga映画祭でAudience Awardを受賞。来年度アカデミー賞外国語部門のCubaからの出品作に選ばれた。

Phoenix (Germany)
1945年ベルリン。主人公Nellyは有名な歌手であったがユダヤ人収容所に入れられ、生き残ったものの顔に酷い怪我を負い友人Leneによって助け出される。顔面複製手術を受け夫Johnnyを探し出すが、Johnnyは彼女がNellyである事に気が付かず、Nellyが亡くなっていると信じるJohnnyは、彼女をNellyに仕立てあげNellyの財産を受け継ぐ計画を建てる。Nellyを裏切りナチ軍に通報したのはJohnnyだと言うLeneだが、愛する夫を信じたいと思うNellyはJohnnyの計画に同意する。Nelly役Nina Hossが好演。地味だが良くまとまった傑作。

Still Life (UK / Italy)
公共機関に勤める主人公John Mayの仕事は、孤独死した人達の身寄りを探す事。神経質で生真面目なJohnは、身寄りのない人々の為に葬儀や墓地の手配までしてあげていた。事業縮小の為リストラになるが、最後のケースはやり遂げる事にする。元同僚、元彼女、そして娘を探し出すが、誰も故人の葬儀には参加したがらない。ケースをクローズし絶望しているところに故人の娘Kellyから連絡が入り・・・。ラストシーンがとても感動的で心に残る。監督は“The Full Monty”のUberto Pasolini。Venice映画祭でBest FilmとBest Directorを受賞。その他の映画祭でも数々の賞を受賞している。

Boychoir (USA)
母親を亡くし孤児になった11歳の主人公Stet。疎遠だったStetの父親が引き取りにくるが、妻と娘達にはStetの事は知らせておらず、どこかの施設に入れるつもりであった。Stetの事を気にかけ彼の歌唱力に一目をおいているStetの教師Ms. Steelは、American Choir Schoolに入学させる事を勧める。そこでの規律正しい生活の中、Stetはその才能を除所に伸ばしていく。厳しい合唱団指揮者のCarvelleにも見込まれ、ソロシンガーの位置を争う所にまで成長する。Francois Girard監督(The Red Violin、Silk)はキャスティングに当たり、Carvelleを厳しく非情だが憎まれないキャラクターにする為にDustin Hoffmanに演じてもらう事が重要であったと語る。また、Stet役は歌唱力があって演技も出来る事が条件になる為、その子役探しには特に苦労をしたと言う。声変わりの為、少年合唱団でソプラノをこなせる期間は限られている。大舞台に向かう子供達にCarvelleが優しいアドバイスをするクライマックスの台詞は、Hoffman自身が考えたという。それは彼自身から子役達へのメッセージでもあり、心を打たれる。

Living is Easy with Eyes Closed (Spain)
1966年、高校の英語教師Antonioは、彼のアイドルJohn Lennonが映画撮影の為スペインのAlmeriaに来ている事を知り、Lennonに会う為に車を走らせる。その道中、未婚で妊娠してしまい修道院から逃げてきたBelenと、厳格な父親に耐えられず家出をしてきたJuanjoを拾う。純粋で熱心なAntonioは、人生に対し迷いを感じている若い2人を優しく導いていく。キャストが好演。地味だがユーモアたっぷりで心温まる作品に仕上がっている。作品タイトルは、ビートルズのStrawberry Fields Foreverの歌詞から来ている。Goya AwardsでBest Film、Best Director、Best Actor等6つのカテゴリーで受賞。来年度アカデミー賞外国語部門のSpainからの出品作に選ばれた。

A Dangerous Game (UK)
2011年に製作された“You’ve Been Trumped”の続編。前作で注目されていたスコットランドAberdeenshireの砂丘は一部が破壊され、そこにTrumpの高級ゴルフ場が建設された。前作でTrump Corporationのスタッフが対処すると約束した農家の水源問題も未解決のままである。農夫Michael Forbesは、億万長者の横暴な対応に勇敢に立ち向かうその姿勢が称えられ2012年Spirit of Scotland Awardsを受賞。また今回の作品は、Trumpが風力発電計画を中止させ、Aberdeenshire に2つ目のゴルフ場建設を試みた事も伝える。幸いにも風力発電計画が施工される事になった為、Trumpはその試みを諦めアイルランドに計画を移す事になった。更に、環境や歴史のある町並みを破壊してのゴルフ場建設が世界的な問題になっている事も指摘している。ユネスコの世界遺産に登録されているクロアチアDubrovnikでは、市民投票でゴルフ場建設の反対が決まったにも関わらず、それを無視しての施工が決定されている。金持ちの娯楽の為に世界中に建設され続ける数々のゴルフ場。それの維持の為に使用される農薬が環境に悪影響を与える事、また、場所によっては市民の飲料水を利用し水撒きがされている事等、問題は強引なゴルフ場の建設問題のみならず、環境問題にも及んできている。作品公式サイトhttp://www.adangerousgame.org/

Glen Campbell: I’ll Be Me (USA)
2011年にアルツハイマーと診断されたカントリーミュージックレジェンドGlen Campbell。それを世間に公表し、“グッバイツアー”を行う事にする。当初、短期のツアーと予想されていたが、最終的には1年半に渡り151のソールドアウトショーを行った。作品監督のJames KeachにはCampbellと彼の家族へのフルインタビューが許可され、作品は、ツアーの様子を伝えるだけではなく、病気が進行していく中、ステージに上がる度に生気を取り戻し素晴らしい演奏を続けるCampbellを温かく見守る家族の心情にも焦点を当て、人情深く感動的である。VIFF Most Popular International Documentary Award受賞作。

Just Eat It: A Food Waste Story (Canada: BC)
世界中10人に1人は食べる物に困っている。それにも関わらず、約40%の食料生産物が、生産者から販売者に行く前に廃棄されているという事実は非常にショッキングである。作品は、無駄な食料廃棄の問題を積極的に訴えてきた活動家達のインタビューを交え、とても考えさせられる。我々消費者が野菜や果物の形や多少のキズに拘らずに購入すれば、販売者が生産者に形やサイズの規定をしないで済み、形やサイズが規定に合わない食品が無駄に廃棄されずに済む。生産者、販売者、そして消費者全員が問題解決に協力をしていかなければならないと痛感した。VIFF Impact Award受賞作。Must See BC Winner。

The Boy From Geita (Canada: BC)
タンザニアでは、先天性色素欠乏症の子供達の骨が呪術医の良薬として使用される為、彼らが手足を切断されるという残酷な事件が後を立たない。作品は数人の犠牲者にインタビューをしているが、ストーリーの中心は12歳のAdam。父親に雇われたアタッカーによって右手の親指と2本の指を切断された為、文字を書く事ができない。Adamの事を知ったカナダ人Peter Ashは自身が先天性色素欠乏症。タンザニアを訪れ、学校で勉強をしたいと望んでいるAdamの望みを叶える為、Adamがカナダに渡航し、右手複製手術を受けられるようその手配を整える。Vic Sarin監督は、この作品を通し発展途上国での教育の重要性を訴え、それによって状況が変わる事を心から望んでいる。

Preggoland (Canada: BC)
主人公Ruthは仲良し4人組で1人だけ子供がいない。35歳になるが未だにユースが抜けきれず、母親として責任のある行動を取る友人の中で1人浮いてしまう。出産祝いに乳母車を購入しに行った際、店員に二日酔いを妊娠と間違われ、それをきっかけに偽妊娠を演じる事を思い立つ。主演Ruth役Sonja Bennettはこの作品で脚本家デビュー。Ruthが勤めるスーパーマーケットの同僚Pedro役には、ハリウッドの悪役俳優Danny Trejoを起用。祖国では医者だった移民者という役どころでRuthの嘘を早々と見抜くが、自分がスーパーでの仕事をくびにならない様にRuthが協力するという条件で、偽造妊娠の手助けをする。3枚目でコミカルなこの役柄を喜んで引き受けたという。センスの良いユーモアたっぷりで、笑いが絶えない楽しい作品に仕上がっている。VIFF Most Popular Canadian Feature Film Award受賞作。

[文・天野雀]

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