コミュニティー特集 レポート 第七回翻訳・通訳ワークショップを終えて

 2015年5月2日(土)第7回日本語関係者有志主催の翻訳・通訳ワークショップが日系センター、楓の間にて開催されました。2年ぶりとなるこの度のワークショップは前回とは異なり、気軽に意見を発表してもらえるようにと参加者は20人に絞られました。参加者の中にはリピーターやプロの翻訳家の方々、日英・英日の翻訳に関心の高い学生さんなどがいましたが、少人数が功を奏したのか、参加者の中から絶えず試訳が飛び交う充実したセッションとなりました。
 
 今年の翻訳実習は英語から日本語への翻訳に絞り、取り上げられた課題は ”Is it the Year of Ram, Sheep or Goat?” と“Winter Escape” の記事2点。前者は十二支の中の「未年(ひつじどし)」の「ひつじ」とは”Ram”か “Sheep”か “Goat”の中のどの生き物のことかという文化的な話題で、後者はGlobe & Mailの旅の広告。この中に出てくる ”When the world zigs, do you prefer to zag? という表現などは、英語から日本語へのごろ合わせ的な訳が困難なものでした。また、後半では、翻訳者を悩ませる「一行翻訳」に取り組みました。こちらも2題、エール・フランスの広告より、”France is in the air” とロッキー・マウンテン・レールツアーの広告より、”Don’t forget to blink”の2題が取り上げられました。短い訳の中にいかにスマートかつ自然な表現でメッセージをこめるか、翻訳者側の裁量が問われる課題でしたが、参加者からも意欲的に発表があり、熱のこもったディスカッションとなりました。ファシリテーターは前回同様、鹿毛達雄元明治学院大学教授とSTIBC公認日英翻訳者の李アグネスさん。プレゼンテーションではプロジェクターを使用して、原文を提示し、そこにボランティア3人の試訳を映し出して比べ、参加者にも各々の試訳を発表してもらう。同じ原文でも人が変わると全く違った訳になる。「可能であれば、クライアントがどんな翻訳を求めているのかよく話し合う。読み手に響く訳とは何かを常に念頭に置く」という、STIBC 公認英日翻訳者で様々なジャンルの翻訳を取り組んでこられたシャープ・雅子氏やファシリテータから参加者へのアドバイスも貴重なものでした。
 
 また、今回は武田正継氏が日本へ一時帰国する際のインターネット接続についての方法やコストなど実質的で詳しい説明や、江口和美氏による「文芸翻訳の会」の紹介と活動内容の報告の時間が設けられ、実に内容豊富で盛りだくさんな前半となりました。
 休憩を兼ねたネットワークの時間を挟んでの第二部では、ゲスト講師に社会言語学者で長年日本人に英語を教授した経験をお持ちのウィリアム(ビル)・マクマイケル氏(Dr. William McMichael)をお迎えし、日英・英日の翻訳における日本人の弱点についてお話しいただきました。日本人ならではの陥りやすい、冠詞や助動詞の時制などの文法上の間違い、原文を直訳しがために起こる不自然で冗長的な表現など、ヴィジュアルエイド(視覚教材)を使い、ジョークも飛ばしながら、面白おかしく指摘されました。

 この度のワークショップを終えて、バックグラウンドは違えど、共通する志を持つ参加者の皆様や運営スタッフの方々との学びの場に参加できたことを大変嬉しく思います。私事ですが、今回のワークショップでは、自分では考えつかないような訳や解釈に触れることができ、「目から鱗」の経験をさせていただきました。ワークショップの最後の鹿毛氏の翻訳者へのアドバイスにもありましたが、「仲間をつくり、訳文を交換、検討しあうことから学べることが多くある」。そのことを実感できる実りある3時間半でした。年に一度のこのワークショップはそんな仲間と語り合える良い機会なのではないでしょうか。

 最後になりましたが、スポンサーの皆様、参加者の方々、またご協力いただいたすべての皆様に心より感謝申し上げます。

[文:成瀬晶子]