レポート:補償の遺産フォーラム

 グレーター・バンクーバー・日系カナダ市民協会(GVJCCA)の「補償の遺産フォーラム」(Legacy of Redress Forum)で、私は各テーブルを渡り歩きました。すると会話の端々からアイデアが湧き出てくるのが聞こえてきました。「権力者に真実を語ろう」、「すべての人にストーリーがある」、「人々は意識し始めている」。

 GVJCCAの人権委員会は、人々を結びつけ、1942年の日系カナダ人に対する不公平な攻撃や連邦政府に不当行為の認識と賠償を求めて戦った歴史を共有し、今日の私達の歴史との関連を示すために、去る10月3日に補償の遺産フォーラムを開催しました。

 政府は恐怖を煽り、戦時措置法によって二万二千人余りの日系カナダ人を強制的にBC州の西部沿岸地域から排除し、監禁し、土地、商売、車両、漁船、個人財産など全てを取り上げました。1988年、連邦政府は謝罪し、二度とこのようなことが起きないようにすると声明を発表しました。

 フォーラムでは法案C51号の採決、そしてイスラム教コミュニティーや先住民、私達の権利や環境について声を上げている人たちなど、2015年に何が起きているのかを考えることができました。1942年には声をあげる人はほとんどいませんでした。私達は今、私達の権利への攻撃を阻止するために共に何ができるでしょうか?

 参加者は違うテーブルに移動して議論をしたり、スピーカーの話を聞いたり、活動内容をリストアップする機会がありました。

 スピーカーのランガラ・カレッジ及びクワントレン・ポリテクニック大学講師、イトラス・サエードは、フォーラムの参加者が「我々の歴史と戦いとは相互につながっており、前進するためにはお互いの理解と団結が必要であることを学んでほしい。これは始まったばかりで、相互に学び合い、協力することができたら」と希望しました。

 参加者からは教育、若者向けのカリキュラム開発、若者たちへのメッセージの伝達、知識の不足を克服するためにあらゆる人々が参加することができる公開討論、そしてさまざまなコミュニティーが一堂に会し、団結することができる機会を設けるなどの活動内容が提案されました。

 フォーラム参加者の一人、キャロライン・ナカガワも同意しています。「私たちはそれぞれ違う強制退去や差別の事例も一般論としては全てが関係しているという話をよくしますが、このフォーラムのスピーカー達は自分自身の経験からしてそれが真実であることを示してくれました。 抑圧されたコミュニティー内での団結をもたらし、さらにいくつかのコミュニティーを団結させてくれた今日の話し合いは当然なもの、簡単で、必要かつ効果を発揮するように思います。もちろんそれがいつも当然で簡単だと感じられるわけではないでしょう。私はこれは今回のJCCAの(促進)活動の賜物だと思うのですが、私にとっては、今回の議論は私達に何ができるのかを示唆してくれた良い機会でしたし、これが今後のよりよい発展への出発点になってくれればと思います。」

 フォーラムのスピーカーで、ドッグウッド・イニシアチブ(Dogwood Initiative)のエネルギーおよびデモクラシー部長のカイ・ナガタは日系4世です。同氏はこのフォーラムを「過去の不当な行為と現代の権利や自由のための闘争をつなげる非常に貴重な機会だ」と捉えています。「日系カナダ人は連邦政府が照準を合わせて的にした人々の代表として声を上げる責任があるし、ファースト・ネーション(カナダ原住民)やイスラム教徒(の支持者)とストーリーをシェアできたことで、私達は団結を通じて強くなれるということを強く再認識することができました。」

 お互いから学ぶことも参加者が確認したもう一つの活動方針でした。サエードは「イスラム教のコミュニティーは日系カナダ人のコミュニティーの経験、特にリドレス運動から学べることはたくさんあると思います。2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件以来、日系カナダ人コミュニティーの大勢の人たちが手を差し伸べ、カナダのイスラム教徒や(カナダの)イスラム系団体への連帯と理解を表明してきてくれました。このような困難な時期にとても重要なことでした。」と発言しました。

 オードリー・シーグル(Audrey Siegl sχɬemtəna:t)は伝統的なムスキアム族の歓迎法を披露した後、スピーカーとして彼女の経験をシェアしてくれました。「私の仕事は発言できない人々に代わって発言することと、私の先祖たちの業績を引き継いでいくために、先祖の代表を務めることです。私は自分たちの言葉や歌や真実が人々の心を開き、私たち全員を再び結びつけ、全ての人たちがより良い日々を送れるようになることを誇りに思っています。」

 「身の上話をする時には表現に気をつける」という提案もありました。話をする際、言葉は使い方によっては強(力)さを発揮することもあるという意見が出ました。「『Relocation(移転) 』は強制的追放を意味する遠回しな言い方に過ぎません。」「食べ物や音楽、草の根組織運動やメディア、ソーシャルメディアを使うことによって、私たちが「『反対』や『抵抗』を行う際に恐れることなく『発言する権利』を得ることができるのです。」

 このフォーラムは連邦議会選挙の前に行われ、投票することは重要な行動だと位置付けられました。また、コミュニティーの意向を代表する人が選ばれるようにする作業や、様々な言語で情報を提供し投票をより便利にすることが必要だということも話題になりました。裁判制度を通しての法的な異議申し立て、特に法案C−51号に対しての憲法に基づく異議申し立てについても議論されました。

 バンクーバー・アジア文化遺産月間協会(explorASIAN)会長のケン・マクアティアは、このフォーラムを次のようにまとめました。「補償の遺産フォーラムは、 日系カナダ人が第二次世界大戦中に経験したような、世間の恐怖と疑いのせいで自由を失い、財産もなくし、無礼な扱いを受ける人々が再び出ないようにどうすれば良いのかについて様々な案を考えさせられる重要なイベントでした。」

(付記:このレポートの原文は本誌2015年11月号に発表されています。)                          

(文・ロレーン及川 訳・浅野佳予子)