福島 −4年目の惨状−

汚染水の問題など

 東日本大震災による振動と津波によって引き起こされた東京電力の福島第1原子力発電所にある6基の原子炉のうち4基が爆発を伴う事故を起こし、大量の放射性物質が、環境に放出された。なお、この事故は天災によって引きおこされたが、東電は、大震災と大津波の警告を無視して、充分な危機対処をしていなかったので、人災の面が大きい。しかし未だに、その刑事責任は問われていない。
初期の政府の発表では、放出された放射線量は、チェルノブイリ原発(ウクライナ、1986年)の大爆発事故の数分の1に過ぎなく、あまり問題にならないとした。しかし、大気中へばかりでなく、滞留水や海洋への漏出も考慮に入れた最近の推測では、セシウムやヨードの放出量は、チェルノブイリの1.5倍から2倍程度であったらしい。しかも、現在でも福島廃墟からは放射性物質が出続けているのである、特に汚染水として。

 汚染水はどうして出るか。1〜3号基の燃料はメルトダウンしてしまったが、いまでもかなりの熱を出し続けている。だから冷やし続けないといけない。1日に300トンほどの冷却水を注入しているが、原子炉が壊れていて、水が漏れてしまう。その水は燃料に接するわけだから、放射性物質に汚染されてしまう。それをなんとか集めて保管タンクに入れている。本来ならば、それから汚染物を除いてきれいにするはずなのだが、莫大な費用をかけて試作された機械は、今のところ充分に機能していない。地下水は、原子炉の下を通る時に汚染され、海に注いでいる。これをなんとか防ぐ方法も失敗した。現在、汚染水用のタンクは満杯になろうとしている。どうするか。

放射能というもの

 放射性物質とはその原子核が、α、β、γ線などの放射線を出す物質で、原子炉の中でおよそ200種出来る。主なものに、セシウム(134、137;β,γ線を出す)、ヨード(131;β,γ)、ストロンチウム(90;β)、プルトニウム(239;α)などがある。この他に厄介なのが、トリチウム(3;β)である。

 放射性核種は煮ても焼いてもなくならないが、自分で放射線を出して非放射性のもの変わって行く。放射性のものが、最初の半分になる時間を半減期という。半減期には非常に短い(秒以下)ものから、非常に長いものがある。短いもの代表は、ヨード(131)で半減期は8日、しかし放射線強度は強く、甲状腺に集まり易い。長い方の代表にはプルトニウム(239)があり、2万4千年である。プルトニウムは原爆の材料になる。放射性がなくなるまで(これは理論的には永遠だが、半減期の10倍の期間で1000分の1になる)、放射性廃棄物を、安全に纏めて長期(万年より以上のオーダー)にわたって保管する場所・方法を人類はまだ見つけていない。原発が「トイレのない装置」と云われる所以である。

放射能の被害

 さて、放射線の影響は出ているのであろうか。政府が公式に行っている唯一のことは福島の子供たちの甲状腺の異常の検査である。約37万人の子供たちを検査した結果、2014年11月までに、118人の甲状腺ガンを持つ子どもが見つかった。これは、子ども人口100万人あたりにすると約350人。これが3年半なので、1年あたりにすると100人。正常な環境下での子どもの甲状腺ガン発症率は100万人あたり約2人/年なので、正常のおよそ50倍という高い率でガンが発症している。

 しかし、政府も、福島大の検査担当者たちも、これらの子供たちの甲状腺ガンは福島事故からの放射線とは無関係と主張している。その理由は「チェルノブイリでは子ども達の甲状腺ガンは4−5年後に発生―だから福島のように、1−2年後に発症するのは、放射能とは無関係」「今回は精密な器械を使って検査しているので、普通は見つからないものまで見つけてしまっている(スクリーニング効果という)」という。真実は、チェルノブイリ事故当時、甲状腺検査のための精密な機器がなかった。そして、4−5年後にアメリカから機器が寄贈されて、ようやく検査ができるようになったからで、4-5年より前に発生していなかったわけではなく、見つける手段がなかったからである。2つ目の理由も、ガンが発生した場所とそこでの放射線量との間にかなり関係があるという事実、スクリーニング効果なら、場所によることはない―というように、理由付けはウソなのだが、未だに主張し続けている。

 政府、自治体などからの公式なデータは発表されていないが、日本中の病院での診療記録を見ると、日本中で、もちろん福島では顕著に、病気になる人が2011年以降急増している。もっとも顕著なのは、急性心筋梗塞の増加で、福島では、その分布が放射線量の分布にかなり近い。白血病も急増している。

 これらの現象は、空間線量100mSv以下の所で起っていて、政府が主張する「100mSv以下ではガンは発生しない、安全だから心配する必要がない」という放射能安全神話に反する。この神話が間違いであることはかなりの研究で証明されているし、上に述べたようにあらゆる病気がこうした低い線量(被曝量)で、すでにかなり発生している。政府、企業の意図は、放射能の悪を隠蔽し、放射能との共存を許容するように人々を洗脳しようとするものである。

落合栄一郎 工学博士、化学者、 「バンクーバー9条の会」会長

落合栄一郎
工学博士、化学者、
「バンクーバー9条の会」会長

[文・落合栄一郎]