日系人収容体験の証言を出版 Honouring Our People –Breaking the Silence

Honouring Our People –Breaking the Silence

 去る2009年9月、3日間にわたって当地でJCCA人権委員会が主催した日系人の収容体験を語り合う会議“Honouring Our People—Stories of the Internment”(日系人を称える‐収容の物語)が行われた。この会議には第二次大戦中の移動、収容の体験者や家族や友人などが一堂に会して、当時の体験を聴き、話し合い、それから学ぶ稀有の機会であった。当時、国籍の如何に関わらず日系人は敵性外国人と見做され、人種差別、行動の規制、総移動、財産没収などを経験した。会議ではそのような経験が披露され、その後、生活を再建し、大戦後の繁栄をもたらした日系カナダ人の忍耐力や柔軟性を称える機会でもあった。そしてこの会議は後継者たちにとって家族の歴史を学ぶ機会でもあった。

 私たちはこの会議は日系カナダ人コミュニテイにとって重要な成果だったと考え、それを記録として残すことを企画した。そこで、この会議で証言した約40名の体験談を書き起こす作業を始めた。そして、近日中にその記録が英文の本Honouring Our People –Breaking the Silenceとなって、刊行、発売されることになった。体験談を収容所ごとに整理してまとめたものが本書の主要な内容である。加えて、捕虜収容所で過ごした人、大戦後、日本に追放された人、大戦勃発当時に日本に滞在していたために足止めされた人の経験も収録されていて、大戦中多岐の渡る日系人の経験を知る格好の手がかりとなっている。

沈黙を破った日系人の証言

 大戦中の収容体験がある日系人の大部分は現在、80歳以上の二世である。従来、我慢、頑張りなどを美徳とするその人たちの中には、大戦中の収容体験について、家族など親しい人にも語ることを躊躇している場合が多かった。従って、本書を通じて、副題にあるように収容体験者が「沈黙を破って」語った体験を知る稀な機会を提供している。

本書は体験者の証言をタシメ、グリーンウッドなどをはじめとする収容所ごとにまとめている。更にリルエット、ミントなどの自主移動先、他州のシュガービート農場、道路建設キャンプ、そして、捕虜収容所の体験、日本への「送還」、大戦勃発による日本での足止めの経験者の証言も含まれている。このような多岐にわたる日系人の過酷な体験を網羅した本書は先達たちの足跡から学ぼうとする私たち日系人にとって有意義なものであるが、加えて、日系人の経験の歴史的、社会的な意義を検討し理解しようとする若い世代のカナダ人や研究者にとっても、有益な参考文献になるだろう。また、多数の歴史的な写真も収録されていて、読みやすく構成されているのも本書の特徴である。

 本書のような内容の本が現時点で刊行されることには、あえて言うなら一回限りの歴史的な意義があると思う。上に触れたように本書に収録された収容時代の体験者は概ね高齢の二世であり、その人たちの証言をまとめて収録、公刊することはこれが最後のチャンスとなるかもしれない。その意味でこの本を通じて、歴史の本来の意義、すなわち、

           現在の立場から過去を学び、将来の教訓とすることを自ら実践する貴重な手がかりになるのではないかと思う。

 私がこのような感慨を抱いている理由のひとつは2009年の会議に参加され、その証言を本書に収録させて頂いた日系人の中には、以下のような11人の他界された方々があるということである。以下にその氏名を列記して、諸氏の冥福を祈る。

 ハリー・青木、エミー・平田、ユキオ・トニー・那須、セイイチ・ビル・田原、デービッド・山浦、ヨニー・米本、ジロウ・神谷、ボブ・新見、ノリ・西尾、イザベル・木本、テルオ・テッド・原田。

出版記念会のお知らせ

Honouring Our People –Breaking the Silence. (Edited by Randy Enomoto. Published by the Greater Vancouver JCCA. $20.00)

本書の出版記念会が来る6月4日(土曜日)、午後2時により4時に日系センター(NNM&CC、6688 Southoaks Crescent, Burnaby)で行われます。お誘い合わせてご参加ください。当日、会場で本書を購入して頂けます。さらに詳しいことはJCCAのウエッブサイト(www.gvjcca.org)をご覧ください。

[文・鹿毛達雄]