BC州不動産証書に残っている人種差別規定

ビル・チュウ氏

ビル・チュウ氏

1965-deed-2

差別の規定が含まれている権利証書

  大戦前、ウエスト・バンクーバーのブリティシュ・プロパーティなどの取得が日系人を含めたアジア系市民に禁じられていたことは良く知られている。しかし、そのような規定の文言が現行の書類に残っていることは知っている人は少ないだろう。すなわち、アフリカ系、アジア系人種に不動産を売却すること、賃貸することを禁する、という長年の人種差別の規定が今でも登記書類に残っていることを、最近、中国系の友人のビル・チュウ(朱偉光)氏から知らされた。この件については先月、5月20日付のCTVニュースで報道されている。  現在有効の不動産の権利証書の中には「アフリカ系、アジア系の人への譲渡、賃貸」だけではなく、「使用人(servant)を除く、アフリカ系,アジア系の人の滞在」も禁止する、という制限が明記されているのである(Indenture, (a)項 及び(i)項)。チュウ氏によると、同様な規定がシーシェルト、ノース・バンクーバー、バンクーバー市の南部、東部などにも残っているということである。このような差別の条項はその後、1985年の法律によって無効とされている。しかし、このような差別の規定の文言そのものがBC州における不動産の所有権を証明する書類に残っていて、それが今後も使われ続ける ことが問題である。もしも私たちが不動産を取得する際に権利証書の中にあるこのような規定を見たら、どんな気がするだろうか。そして弁護士の中にはこのような何千件もの書類に含まれている規定を抹消することは不可能だという意見を持つ人もあるそうだ。しかし、費用や手間がかかってもこの歴史的な汚点とも言うべき規定を除去することは政府の責任といえよう。  このことを知ったビル・チュー氏は登記事務所(Land Title Office) に問い合わせた。そして、権利証書に含まれているそのような規定を抹消することは不可能である、という回答を得ている。州政府担当省(Ministry of Forests, Lands and Natural Resources)に問い合わせの連絡をしているが、まだ回答が無いということである。 差別規定撤廃の運動を  チュウ氏はこの件は結局、最終的には政治的決断の問題であるから、日系社会の人びとにも知ってもらいたいと思っている、と言っている。さらに同氏は次のように言っている。 「BC州には私たちの共通の歴史に関する教育上の空白があり、大多数のBC州の住民は上記のような規定が一世紀の長きにわたるアジア系住民に対する法制化された差別から派生したものであることを認識していない。」「そのため、社会的に排斥されるべき、第二級市民だというアジア系市民のイメージがBC州の多くの住民の思想の中に刻み込まれていた。そこで上述のような差別の規定が実情に即したものとして所有権の権利書に加えられたのである。」  よく知られているように日系人の場合も大戦前にはアジア系住民として差別の対象となっていた。選挙人名簿への登録が認められず、従って選挙権がなかった。公務員職につけなかったし、医師、弁護士、薬剤師など専門職の免許の取得が認められなかったこととも良く知られている。従って、大戦前の差別やその撤廃の歴史について、学校教育の中での取り上げ方が不十分であるとことを「空白」と表現しているチュウ氏の意見に賛成である。  さらに、ビル・チュウ氏は以下のように言っている。「この問題への取り組みとして、政治的に容易な点稼ぎになると考える政治家の手取り早い公約だけでは不十分。それ以上のものが必要である。政治家の活動によって、現象面への対策となるものは得られるかも知れない。だが、今でも表面下から沸き上がってくる差別の原因となるものへの取り組みにはならない。」  同氏はすでにアフリカ系コミュニテイと連絡を取り、影響を受けているいくつかのコミュニティの人びとと会合し、BC州の歴史の暗黒面について市民に知ってもらい、この規定の廃棄の運動を利用して、BC 州における相互理解と癒しを促進できるかどうかを検討したいと思っている、と述べている。私たち日系人もこの運動と連絡を取って、差別撤廃に関心を持つコミュニテイ・グループとの連絡と連帯に努力すべきであろう。  この件に関して私信のなかで詳しい情報を提供して頂いたビル・チュウ氏{Bill Chu, 朱偉光)に感謝したい。ここで同氏について簡単に紹介したいと思う。同氏はコミュニティの活動家として著名である。 Canadians For Reconciliation Societyを設立、主宰している。20年以上まえから中国系市民を引率して先住民の居留地を訪問。先住民との相互理解と交流に関して、精力的に活動している。さらに、最近では初期の中国系移民に関する史跡の保存にも努力し、さらに当時の中国系移民と先住民と交流や協力の歴史について調査するなど精力的に活動している。同氏はカナダ人種関係基金(CRRF)から表彰されている。 (文・鹿毛達雄)