働きing: ハンター石川・英遠

Photo by Alan Beaton—生まれは日本、とお伺いしましたが、日本のどちら出身ですか?

 生まれは埼玉県東松山市で、10才まで日本で暮らしていました。その後、アメリカミシガン州に一家で渡り、大学までミシガン州で過ごし、大学院はハワイに行きました。バンクーバーには2008年から住んでいます。

—日本・アメリカ・カナダと3カ国で太鼓を学び、演奏活動をされている英遠さん。各国によってそのスタイルに違い等は感じますか?

 日本では、太鼓の世界は先生、先輩、後輩というシステムで成り立っています。こちらでは、そのシステムを持ち込んでいるグループもあれば、メンバー全員が平等、というスタンスを取っているグループもあります。そのまま日本のヒエラルキー構造を導入しようとして、それが上手く行かず、衝突が起こる場合もあれば、平等システムによって別の衝突が起こったりということがあったりもします。

 北米では、先生、先輩、後輩の文化は、時に誤った解釈がされ、わざとそれに対抗したスタンスを取ったりするということがあったりします。ですが、それは文化を理解していない為に起こってしまう事で、実際日本での先生、先輩、後輩の文化は、先輩が後輩の成長に対して責任を持ち、次の世代に向けてスキルを伝達して行くと言う重要な役割を担っています。

—バンクーバーでは、日本舞踊家Colleen Lankiさんや尺八奏者Alcvin Ryuzen Ramosさんとのコラボレーションをされていますが、ジャンルを超えたコラボレーションをされる理由は?

 その人が何をやっている、と言う事よりも、その人がどんな人か、ということの方が僕は重要だと思っています。その人が、ダンサー、ビジュアルアーティスト、他のジャンルのミュージシャンであるということよりも、むしろコラボレーションに際して、その人がいかにオープンで、新しい何かにチャレンジする事を一緒に楽しめるかと言う事の方が大事だと思っています。

—コラボレーションの際に難しいと感じることはありますか?

 一緒に作品を作り上げて行く際に、お互いを理解し合わずにプロセスが進む事があります。コラボレーションをする相手の事を理解しようとしないと、良い作品は出来ないと思います。お互いがリスクを取る事を受け止め、新しい何かを作り上げる事に対してオープンだと言う姿勢がないと、共同の作品というよりは各々が別々の事をしているようになってしまいます。

—8月30日、31日に開催される日系祭りでは、日本からの津軽三味線奏者、山口ひろしさん、Alcvin Ryuzen Ramos さんとコラボレーションをされるとのことですが、その見どころは?

 山口ひろしさんとは、昨年彼がこちらで演奏された際に会っています。その時に、ひろしさんがよく一緒に演奏する太鼓奏者は、僕の最初の太鼓の先生の息子さんだということを知り、意気投合しました。

 日系祭りのコラボレーションの準備は始まったばかりですが、新しく、ユニークで、3人のインタラクションが感じられるパフォーマンスになると思っています。

—現在活動中のOn(音) Ensembleについて教えて下さい。

 On Ensembleはロサンゼルスを拠点とした太鼓がベースとなったグループです。僕は太鼓、ドラム、ヴィブラフォン、篠笛を演奏しています。他のメンバーは琴、フレームドラム等を演奏したりします。メンバーの多くが日本で伝統楽器のトレーニングを受けているので、そういった理解を踏まえてジャンルを越えた音楽を作っています。

—演奏活動に加えて、現在コキトラムにあるPlace des Artsで子ども、アダルト向けのパーカッション、太鼓クラスを教えていらっしゃいますよね。

 パーカッションと太鼓のプライベートとグループレッスンを教えています。生徒の年齢は5才から大人まで幅広く、生徒のバックグラウンドもさまざまです。僕のアプローチはハワイでケニー・遠藤先生から学んだスタイルで、口唱歌に重きを置いています。どーん!どーん!から、から。こうやって口で表現する事によって学んで行きます。

 生徒は、普段言い慣れない言葉なので初めは戸惑ったりすることがありますが、声に出して歌う事によって頭に刻み込まれ、作品をより正確に習得する事ができます。

—教師として気をつけている事等はありますか?

 日本と北米の生徒の違いは 、black & white ではなく、人によるということだと思います。文化によってチャレンジが変わる、どの世界にいても教育には難しいことがあると思っています。また、北米ではストラクチャーやルールに対して寛容な部分があるのですが、僕のクラスでは最初にルールを設定するように心がけています。例えば、生徒同士が、お互いを尊重し合う、と言った事です。幼少時代、日本でも、アメリカでもミクスド・ルーツであることから差別を受けたりしたことがありました。そういった経験から、他者のアイデンティティーを尊重することは自分にとって非常に重要で、こういったことを次の世代に繋げられるように心がけています。

—今後の予定は?

 On Ensembleのツアー、日系祭り、秋からのPlace des Artsでのクラス等、忙しくなりそうです。どんな仕事やプロジェクトでも、自分が楽しんで出来るように心がけています。

 ミュージシャンとしてのキャリアが始まった頃は、生活を維持する為に楽しくない仕事もお金の為にやったりしていました。毎年、そういった仕事の分量が減り、楽しんでできる仕事の量が増えて来ています。将来的にその割合が100%になればと思っています。

vancouvertaiko.ca/workshops

onensemble.org

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