日系カナダ人の経験について話し合おう

2014年9月に開催されたJCYLC(日系カナダ人青年リーダー会議)

2014年9月に開催されたJCYLC(日系カナダ人青年リーダー会議)

 私たちは日系カナダ人の歴史とどう関わっているのだろうか。最近、この問題について考える機会が一度ならずあった。先ず、今年9月に当地で日系カナダ人協会(NAJC)の年次総会と平行して「日系人青年リーダー会議」が行われ、それをきっかけとして日系人コミュニテイに関心を持つ20代、30代の若い人たちとの継続的な連絡、交渉が可能になったのは喜ばしいことである。その人たちと日系三世など年長の世代との交流のテーマとして、若い世代が体験したことのない「歴史的」な時代を理解するのに、私たち年長の世代がどのような援助を提供できるか考えてみたいと思っている。

「バンクーバーの朝日」を題材にして対話を
 一例として、本誌の11月号で詳しく紹介されているように、日本で製作された映画「バンクーバーの朝日」は当地在住の多くの人々の関心を集めた。この映画は、若い世代の日系人や大戦後の移住者など普段、関連の本や講演などに触れる機会があまりなかった人たちに大戦前の人種差別や理不尽な強制移動など、日系人の歴史の重要な側面を伝え、考えるきっかけを与えてくれるものであった。当然ながら、この映画は物語として構成されていて、歴史的な事実を伝えるドキュメンタリーではない。しかし、歴史的な正確さを伝えることを目的とした平板な内容のものよりは、虚構が含まれるものであっても、内容の面白さゆえに歴史にたいする関心を掻き立てることになるとすれば、それは私たちにとってはるかに有意義なものと看做されるべきであろう。
 そこで提案として、この映画を題材として、若い世代と年長の世代の対話の機会を設けてはどうか。この映画と関連して、体験者から当時の人種差別、日本人町、日系人の暮らしぶりなどを話して貰うことを含めて、私たちが抱いている当時の日系人社会のイメージをお互いに交換できれば幸いと思っている。

補償問題の解決から何を学ぶか
 もうひとつ、世代間の話し合いの題材として取り上げてはどうかと思っているものがある。それは現在における日系人に対する補償問題の意味である。1988年の日系人に対する補償問題の解決はカナダの人権擁護の歴史上、重要な出来事と見なされている。それから26年を経過した現在、私たちは何を受け継ぎ、これからも何に注意を払っていかなければならないだろうか。最近、当時の補償の運動の指導者であったアート・三木氏が当地で講演されたが、同氏がその際に触れたように、日系人に対する補償はその後の中国系移住者に対する人頭税や先住民の寄宿学校収容の被害など懸案の補償問題の解決にとって前例をなすものとなった、と語っている。それだけではない。カナダにおける人権擁護の観点から懸念すべき問題が起こった場合に日系人は率先して警鐘を鳴らす責任も担うことになったと、同氏が別の機会に言及されたことがある。
 振り返って見ると、日系人の歴史的な経験の重要な事件として、第二次世界大戦がアジアに拡大された1941年12月7日以降、カナダにとって国家の安全の危険が差し迫ったものではなかったにも関わらず、1914年に制定された「戦時措置法」が発動され、それに基づく一連の緊急命令によって、出生地や国籍に関係なく、連邦政府は日系人を[敵性外国人]と見なし、移動と収容、財産収奪の対象ととしたのである。1988年に到って、連邦政府はそのような人権侵害の誤りを認めて陳謝し、補償を認めたのである。
 このような背景を念頭において考えると、最近のカナダの軍人の殺害事件、とくにオタワにおけるカナダ軍兵士の殺害と連邦議会議事堂への侵入事件をその背後関係が不分明であるにも関わらず、それを連邦政府はテロリズムの事件と見なして、軍や公安機関の権限強化によって対応しようとしたのである。ここに民主主義の基本に関する憂慮すべき問題があると思われる。
 思い起こされるのは、2001年のニューヨークで起った9.11事件をきっかけとして、米国やカナダでイスラム教徒などのコミュニティの向けられた憎悪と人種差別の事件が発生していることである。このような傾向に対して、全カナダ日系人協会(NAJC)は事件直後の9月17日に以下のような見解(報道機関のための発表)を表明している。10年あまり前のその見解の表明は、特に現在、想起に値する。
「… 私たちは憎悪に基づく行動に反対して発言し、警戒心を強め、仕返しや暴力行為を恐れている人々に支援の手を差し伸べなければならない。私たちは政府に対して、イスラム系、アラブ系そのほかのコミュニティの人々を攻撃から保護し、その安全と権利を確保するよう強く要望する。他のいかなるコミュニティも同様なことを経験しないようにするために、私たちすべてが日系カナダ人の経験から教訓を引き出すことを期待しようではないか。」(JCCA人権委員会編「日系カナダ人のための人権ガイド、英語・日本語」。2003年。 33, 86ページ。)
 ここにも私たちが世代間の対話のテーマとして取り上げるのに適当と思われる題材がある。そこには国内における人権の制限やカナダも参加しているイスラム国に対する爆撃が内外のテロリズム対策として目的に適った有効なものだろうかという問題が含まれているのである。来年は連邦議会の総選挙が予定されているので、この問題について私たちの間で議論を深め、各政党や立候補者がどのような取り組みを考えているのか注目する必要があると考える。

[文・鹿毛達雄]

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