Mリーグの日本人選手たちの動向 往年のアサヒ軍の面々ならどう見た?

 もし我らが伝説的野球チーム、往年のアサヒ軍 の面々が、今日のメジャーリーグ(MLB) にかなりの影響を及ぼしている日本人選手たちを目の当たりにしたら、どう見ただろう。 今季MLB のAリーグでは、我らが“ムネリン”こと青木宗則選手がムードメーカー役で頑張ったトロント・ブルージェイズが惜しくも優勝を逃し、覇者カンザスシティ・ロイヤルズ がNリーグの覇者NYメッツとワールド・シリーズを戦うこととなった。一方、日本プロ野球 (NPB)では現時点でヤクルト・スワローズ(セ)がソフトバンク・ホークス(パ)と 日本シリーズを争っている。ここで2015年シーズンを振りかえった私見の幾つかを皆様とシェアしたい。野球ファン、スポーツ・ファンのみならず読者一般にも楽しんでいただければ幸いだ。

 注目するのは、やはり主に太平洋両側のファンたちを熱狂させ、夢を与えてくれる日本人選手だ。昨今はもっぱらTV中継やwwwに頼っているが、プロ野球が大好きになったのはもう50年以上遡る東京での小学生時代だ。 通学の電車内、棚を漁ったスポーツ新聞で当時の東映フライヤーズ、大洋ホエールズ、阪神タイガーズや読売ジャイアンツ(ひいきの順)の記事をむさぼり読んだものだ。

 NPBのホームラン王・王貞治一塁手やMLBでノーヒット、ノーラン(No-No)を達成した野茂英雄投手など往年の大選手の偉業もさることながら、目下ひいきにしている新鋭やベテラン選手のファインプレーの数々にも相変わらずコーフンしている。クロース・プレイのビデオ判定など、新規ルールの導入も試合内容をより充実させていると思う。

 MLB 選手たちの間でNPB の野球に対するリスペクト(敬意)が増しているのも、前述の野茂や元ヤンキーズのホームラン打者松井秀喜と<野球の殿堂>入りが確実視される(鈴木)イチロー外野手という2人のスーパースターに負うところが大きい。

 去る2001年シアトル・マリナーズに始まったイチローのMLBでの活躍、最近42歳の誕生日を迎えたが、なおフロリダ・マーリンズの現役 バリバリで頑張っている。また一時期NPBで<修業>した後 MLBで好成果をあげた、テキサス・レンジャーズの強打者セシル・フィールダーやコルビー・ルイス投手等の評価も関係している。

 マーリンズでは<第4の外野手>イチローの貢献を総括的に高く評価、2016年シーズンも外野手として再契約した。子供の頃イチロー選手の活躍を見ながら育った若手の外野手たちが、いまだ自分たちより強靭な彼の身体を見て脱帽。代打も多かったが結局151試合に出場、この数は先発外野手のそれを上回る。しかし安打が計91本、平均打率はキャリア最低の.229だった。またシーズン最終戦のフィリーズ戦で念願の投手としてのMLB初登板も果たしたのはスゴイ。

 球団会長D・サムソン氏は彼を「これまでに会った野球選手の中で最も興味深い人物だ」として「イチローと時間を共有するのは、英国のビートルズと一緒にいるのと同様、卓越した人物と過ごすことは、そこにいる者をいい気分にさせてくれる」と語った。また「野球というゲームやチームメイトをリスペクト(尊重)をしている」そうだ。
 
 次にNYヤンキーズの<マー君>こと田中将大投手だが、今シーズンは10勝6敗の成績でデビューから2年連続2桁勝利を達成した。実質上エースとなった彼、チームメイトやメディアに対する配慮や快活な性格のお陰で人気者になっているよう。前述の松井氏(現在同球団ファーム・チームの巡回打撃コーチ)同様、思いやりや年長者をたてる日本文化の長所が日頃の言動に表れている。夫人里田まいさんが第1子妊娠を9月に公表している。

 SFジャイアンツの青木宣親外野手の今シーズンは残念だった。8月上旬に頭部に死球を受け、その後めまいの症状のため故障者リスト入り、復帰したものの打率が.302から.287に急降下した。9月に入り脳震盪のような症状が再発してリハビリが必要と診断されて休養、そのままシーズンを終えた。打・守・走と三拍子そろった気風の良い好選手だけに、球団は来季契約の選択権を行使する見通しと伝えられる。

 ボストン・レッドソックスで人気の上原浩治投手も不本意なシーズンだった。4月上旬に故障者リスト入りし開幕メンバーから外れた。同14日の初登板では1回無失点でセーブを挙げ、40代でセーブを挙げた日本人投手として斎藤隆に次ぐ2人目となった。5月中旬のブルージェイズ戦で6セーブ目をあげ、これが日米通算100セーブ目。8月上旬のタイガース戦で打球を右手首に受けて骨折、以降登板することはなかった。

 ここで日本に目を転じたい。今年の8月末から9月にかけて、高校野球選手権終了直後の日本で初めて開催されたWBSC・U18(18歳未満)ワールドカップ第27回大会で初優勝を狙った日本チームは決勝戦まで全勝で勝ち進むも、決勝戦でアメリカに敗れ初優勝はならなかった。だが2人の並外れた選手がプロのスカウトの注目を集めた。東京関東第一高3年のオコエ瑠偉外野手と早稲田実業高1年の清宮幸太郎選手だ。

 オコエ選手は元サッカー選手の父がナイジェリア人で母が日本人のハーフで、すでにプロ並みの走塁スピードと強肩の持ち主だ。スポーツ一家に育ち、小1の頃から野球一筋。高校で開花し、最近のプロ野球ドラフト会議ではトップ指名で楽天に入団した。その際のコメントが頼もしい。「1年目から1軍で出られるよう頑張りたい。打撃の技術は足りていないし、走塁、守備ももっとレベルアップしないと」

一方清宮選手が主軸打者を務める早実高は甲子園の高校野球選手権ではベスト4に輝き、U18ワールドカップで日本チームは彼の貢献もあって米国に次ぐ準優勝を達成した。再来年の卒業後のプロ入りは確実と見られる。いずれはMLBでプレーする可能性大の両選手、今後ずっと目が離せない。

 個人的には2015年シーズンを通して最も心の温まったエピソードをひとつ。夏頃の或る試合で、デトロイト・タイガーズの一塁手ミゲル・カブレラが観衆の少年 に生涯忘れられない様な贈り物をしたのだ。一塁側の観客席前列にいた10歳位の少年の前をバッターが打った強烈なファウル・ボールが抜けて行こうとする瞬間、彼が突き出した左手のグラブにボールがすっぽりと入ってしまった。興奮の絶頂に達した少年、「I got it! I got it!」と大声で叫び始めた。すると一塁手の通称 “ミギー” が少年の方を向いて2,3度頷き、左胸のハートを右手でポンポンと叩いた。<その気持ち、よくわかるぜ>とでも思ったのだろう、イニングが終了するとその子の処に走って行って一本のバットとバッティング用手袋を手渡したものだ。その気持ちをいつまでも忘れるなよ、というメッセージを託した贈り物。TVの解説者曰く「あの子がお祖父さんになる頃、きっとお孫さんたちにこの話をするでしょう」。

 結びに、アサヒ軍 の面々が日本人選手たちの活躍を見て、何て言うだろうとの問題だが、恐らく嬉しさも混じる複雑な心境となるのではと想像する。幸いに当時のアサヒ軍登録選手74名の内、ケイ(功一)上西さんが唯一ご健在だ。機会を見て是非伺ってみたいものだ。

[文・渡辺正樹]