あーと特集:大駱駝艦(だいらくだかん)

 3月8日から28日にバンクーバーで開催されるバンクーバー国際ダンスフェスティバル(VIDF)。今年の目玉は何といっても28年ぶりにカナダでの公演を行う日本を代表するButoh(ブトー)グループ、大駱駝艦(だいらくだかん)だ。

 今回の公演「ムシノホシ」はタイトルの通り「虫」からインスピレーションを得た作品で、カンパニー主宰の麿赤兒さんは「人類は700万年だけれど、虫には4億年生き抜いてきた歴史がある。人類には耐えられないような激変する自然環境の中で、自分たちが変わることによって生き延びてきた。例えば、食料が足りなくなったらどうするか。ヒトの場合、小さくなればいいだろうと50年くらいかけて背骨を減らして縮んでいくとはならないよな(笑)。でも虫たちは自分の体を変えて環境に柔軟に適応していく。その変え方も多様でバラエティに富んでいる。それは地球との対話、交流だと思うんだ。そして地球はもちろん、もしかしたら宇宙とも交信しているんじゃないか。ヒトには感じることのできない何かを受信して応答しているんじゃないか。人類は地球環境を自分たちに都合のいいように変えて生き延びてきた。それを人間の叡智と言うけれど、虫の叡智の方がすごい。そういう虫に対する尊敬だね。」と作品に込められた思いを語った。

 「ヒト」が外に対して変化を求めていくのに対し、「ムシ」は自身を変えることによってこれまで生存をしてきた。「ムシノホシ」ではそうしたヒトの行いに対し、宇宙の目線から警鐘を鳴らすというメッセージも含まれている。また、東北大震災による原発事故とその後の日本社会への疑問も作品のインスピレーションになっている。尺八演奏家の土井啓輔とミニマル・テクノ開拓者のジェフ・ミルズによる音響が麿赤兒のダーク・ファンタジーに観客を誘う。白塗りを施し衣装を纏った22人のダンサーたちが100本以上におよぶ鉄パイプのセットと共に踊る迫力あふれるパフォーマンスは見逃せない。

大駱駝艦(だいらくだかん)
1972年創設。麿赤兒主催。その様式を天賦典式(てんぷてんしき:この世に生まれ入ったことこそ大いなる才能とす)と名付け常に忘れさられた「身振り・手振り」を採集、構築。日本だけでなくアメリカ・フランスでも公演を行いButohを浸透させる。東京・吉祥寺のスタジオ「壺中天」(こちゅうてん)を拠点とし所属メンバーによる作品を上演している。一般の人を対象に「無尽塾」ワークショップを開催し、夏には長野県白馬村にて合宿を実施している。1974年、87年、96年、99年、07年舞踊批評家協会賞受賞。

dairakudakan.com

麿赤兒さんのインタビューは『をどる』vol.06 2014.07.01号より抜粋。