4月のお薦め作品の紹介

4月のお薦め作品の紹介。
Down River (Canada BC)

キャリアと自身の人生の間で葛藤する女優Fawn、シンガーHarper、芸術家Akiと、同じアパートに住む彼女達の良き相談相手Pearlとの友情を描く。作品は、俳優Ben Ratner 監督と2010年5月に亡くなった女優Babz Chulaさんとの長年に渡る友情をインスピレーションとし、3人の女性はRatner監督の分身であり、PearlはBabz Chulaさんがモデルである。Fawn、Harper、Akiは各女優を念頭に置いた上で脚本が書かれ、役者陣の好演で感情的な作品に仕上がっている。去年のVIFF Most Popular Canadian Feature Film受賞作。Fifth Avenue Cinemasにて上映中。

No Clue (Canada BC)

Vancouver在住コメディアンBrent Butt(Corner Gas)が主演、脚本も手がける。監督はCarl Bessai (Mothers & Daughters、Cole)。主人公Leoはしがないペンセールスマン。ある日彼のオフィスにKyraが訪ねて来る。どうやらKyraは、Leoを同じ階にオフィスを持つ私立探偵と間違えたようだ。美人のKyraに行方不明の弟を探して欲しいと泣いて頼まれ、Leoは真実を告げられず引き受けてしまう。作品は、グラフィックアートを所々に入れ、Vancouverダウンタウンをメインに撮影され、バードアイビューを効果的に利用しミステリアスであり、且つ、センスの良いユーモアたっぷりでコメディーとしても良くまとまっている。

The Lunchbox (India / Germany / France)

最近自分に全く興味を示さない夫との熱愛を復活させようと、上の階に住む叔母の助けを借り張り切って愛妻弁当を作るIla。しかし、弁当配達会社の手違いで、彼女の作ったお弁当は早期定年退職間近の会計士Saajan Fernandezに届けられる。Ilaと妻を亡くしたSaajanは孤独感を共有し、お弁当に入れたメモでの文通を通し、正直に心の内を打ち明かす事によってそれから救われ、いつしか心の通じ合いから2人に繊細な感情が生まれる。キャストが好演、地味だが心温まる逸品である。Fifth Avenue Cinemasにて上映中。

The Wind Rises 「風立ちぬ」 (Japan)

宮崎駿監督新作は、クレジットに“堀越二郎、堀辰雄に敬意を込めて”とあるように、同時代に生きた二人の人物を合わせて主人公二郎を描いている。作品は、近眼の為パイロットになる夢を諦めた二郎が飛行機の設計士になる様を描く。関東大震災や戦争等、同時代のイベントを含め、恋人菜穂子との恋愛部分は堀辰雄氏の同名小説がモデルである。今年のアカデミー賞アニメーション部門でノミネートされ、美しい映像と豊かなイマジネーションで感動的に描かれる。Cineplex Odeon International Village CinemasとSilverCity Riverport Cinemasにて上映中。

The Grand Budapest Hotel (USA / Germany)

作品冒頭、現在のとある墓地に少女がThe Grand Budapest Hotelと題した本を抱えてやってくる。少女がその本を読み始めると同時に本の著者The Authorによってストーリーが語られる。若きThe Authorが1960年代にThe Grand Budapest Hotelを訪ねた時、ホテルのオーナーZero Moustafaに出会い食事に誘われる。Zeroは彼がホテルのオーナーになったいきさつをThe Authorに語り始める。1932年ロビーボーイとして働き始めたZeroは、有能な接客係M. Gustaveよりホテルマンとしてのノウハウを教わる。エレガントなGustaveはお金持ちの年寄り女性達から気に入られ、大勢の常連客が付いていた。その一人Madame Dが亡くなりGustaveに値打ちの高い絵画を残した事から、Gustaveに殺人容疑がかかる。Zeroの手助けの下、刑務所を脱獄するGustaveとZeroのアドベンチャーと友情が語られる。作品は、Wes Anderson監督らしいアップテンポで軽快なコメディー。カラフルな色彩を効果的に利用し、現実的であり非現実的でもある。Gustave役、Ralph Fiennesを筆頭に、豪華キャストが各キャラクターを好演している。Scotiabank Theatre VancouverやPark Theatre等にて上映中。

Enemy (Canada / Spain)

大学で歴史を教える主人公Adam。無気力、無感情で淡々と日常を過ごす。ある日、同僚から薦められて見た映画に、自分と瓜二つの脇役者Anthony Clairを見つける。不思議な運命に操られるように、AdamはAnthonyに会ってみたいという欲望を抑えられない。Anthonyの連絡先を探し出し電話をかけると、電話に出たのはAnthonyの妻Helen。Anthonyの浮気を疑うHelenは、Adamの勤め先を訪ねAdamがAnthonyにそっくりな事を知り愕然とする。そして、AdamとAnthonyが面会し、以後、ストーリーは奇妙な転機を見せる。フレンチカナディアンDenis Villeneuve監督(Prisoners、Incendies)の新作は、David Lynch監督の作品のように抽象的に描かれ、映像の色彩で独特な雰囲気をかもし出している。AdamとAnthonyを演じるJake Gyllenhaalを筆頭にキャストが好演。Fifth Avenue CinemasやCineplex Odeon International Village Cinemas等にて上映中。

Nymphomaniac Vol. I & Vol. II (Denmark / Belgium / France / Germany / UK)

Lars von Trier監督のDepression Trilogy(Melancholia、Antichrist)の最終編。主人公Joeは路地で怪我をし倒れているところをSeligmanに助けられ、彼の自宅で怪我の手当てを受ける。自分はニンフォマニアック(Sex Addict)で罪深い悪人だと告げるJoeにSeligmanが理由を尋ね、Joeは幼少時から50歳になる現在までの生い立ちを語り始める。作品は全8章から形成され、Seligmanの部屋から話のきっかけになるものを見つけ、Joeは各章の題名を決めている。また、ティーンネージャーのJoeと親友Bが無賃乗車をした列車で男狩りをする話を聞くと、SeligmanはそのパターンとFly Fishingを繋げて共感しようとする。実はSeligmanは中年でありながら童貞であった。過激な性描写を批判する者もいるが、ずっと奥が深い作品である。唯一無条件でJoeを愛した父親との思い出話では、父親が好きだった木の話、冬の葉が落ちきった木はそれの魂を見せている事、また、自分の魂の木は見つけた時にそれであるとわかる事を父から教わったと語る。作品はブラックスクリーンから始まり、ブラックスクリーンで終る。とても効果的である。また、冒頭、屋根から滴る雫や建物のパイプ等が静寂の中スクリーンに映し出され、それと全く比例し、キャストの登場と共にRammsteinの“Führe Mich”が流れる。青年期のJoeを演じたStacy Martinは女優としての経験があまりないにも関わらず、本作の重要な役柄を好演している。ちなみにセックスシーンでは、俳優達はセックスをしている振りをし、ボディダブルでポルノ俳優を起用し同じシーンを撮影。上半身はキャスト、下半身はボディダブルとポストプロダクションで構成している。

[文・天野雀]